特別防衛監察結果の詳報

2017年07月28日 20:30

 【はじめに】
 南スーダン派遣施設隊が上級部隊である中央即応集団(CRF)司令部に日々の報告を行うため毎日作成し、送付している「南スーダン派遣施設隊日々報告」(日報)の管理状況について、3月17日から実施している特別防衛監察で明らかになった事項をまとめた。

 【対象項目】
 昨年10月3日付で情報開示請求のあった「南スーダン派遣施設隊が現地時間で昨年7月7日から同12日までに作成した日報」の管理状況

 【監察実施の概要】
 (1)日報の管理状況等にかかる関係書類等の取得・分析
 (2)計2048人を対象にアンケート。内訳は内部部局(内局)275人、統合幕僚監部(統幕)507人、陸上幕僚監部(陸幕)1019人、CRF司令部247人
 (3)現場等確認
 (4)計106人を対象に面談。内訳は内局21人、統幕28人、陸幕19人、CRF司令部30人、その他8人

 【一連の経緯】
 昨年7月7日から同12日(現地時間)、南スーダン派遣施設隊関係職員は日報を作成し、陸自指揮システム(指揮システム)の掲示板にデータをアップロードした。掲示板には当時、少なくとも2015年12月ごろからの日報が掲示され、指揮システムの利用者は、日報の閲覧とダウンロードが可能だった。

 昨年7月19日、内局情報公開・個人情報保護室(内局情個室)は、「7月6~15日(日本時間)に中央即応集団司令部と南スーダン派遣施設隊との間でやりとりした文書すべて(電子情報含む)」の開示請求書を受け付けた。

 同20日以降、CRF司令部関係職員は、司令部に行政文書としての日報を含む複数の該当文書の存在を確認した。

 8月1日ごろ、CRF副司令官(国際)は司令部関係職員から報告を受けた際、日報が該当文書から外れることが望ましいとの意図をもって、日報は行政文書の体を成していないと指摘し、日報以外の文書で対応できないか陸幕に確認するよう指導した。指導を受け、司令部関係職員は陸幕関係職員に対し、保有する日報は個人資料であると説明し、日報を該当文書に含めないとする旨を確認、了承された。

 9月13日、陸上幕僚長(陸幕長)から防衛相に対し、日報が除かれた複数の該当文書について部分開示とする意見が上申された。(決裁に陸幕長は含まれていない)

 同16日、防衛省として、日報が除かれた複数の該当文書を部分開示すると決定した。(決裁に防衛相は含まれていない)

 10月3日、内局情個室は、日報に関する開示請求書を受け付け、陸幕関係職員らに開示請求書を送付した。

 同6日、陸幕関係職員はCRF司令部関係職員に、開示請求書を送付した。その後、司令部関係職員は日報が存在しているにもかかわらず、陸幕関係職員に対し、7月19日付の開示請求と同様の対応とすることを確認し、了承された。

 10月14日、陸幕関係職員は内局情個室関係職員に対し、日報は既に破棄され、不存在とする探索結果を提出した。

 11月2日、陸幕長から防衛相に対し、文書不存在につき不開示とする意見の上申がなされた。(決裁に陸幕長は含まれていない)

 12月2日、防衛省として、文書不存在で不開示とすることを決定した。(決裁に防衛相は含まれていない)

 同12日、自由民主党行政改革推進本部(自民党行革推進本部)から日報の不開示決定に関する事実確認について資料要求があった。

 同13日、内局情個室は、日報の不開示決定の取り消しを求める審査請求を受け付けた。

 同13日ごろ、陸幕運用支援・情報部長(陸幕運情部長)は陸幕関係職員に対し、指揮システムの掲示板における日報の現状を確認した結果、日報が存在するとの報告を受け、掲示板の適切な管理を指導した。その後、陸幕関係職員はCRF司令部関係職員に指導を伝達、司令部関係職員により、第10次隊までの日報が掲示板から廃棄された。

 同16日、統幕総括官は防衛相に対し、不開示決定の件を報告した際、日報を再探索するよう指示を受けたが、陸幕等に再探索を指示しなかった。統幕総括官は同26日、統幕参事官付に日報が存在することを確認した。

 同26日、陸幕関係職員は陸幕長に対し、自民党行革推進本部からの資料要求を報告した際、陸幕長から日報を再探索するよう指示を受けた。

 2017年1月17日、陸幕運情部長と監理部長は陸幕長に「陸幕初動対応室、統幕初動対応班、CRF司令部運用室で日報データの存在を確認」「行政文書として存在していないが、個人資料としてデータを発見したとのスタンス」と報告。

 同27日、陸幕運情部長は統幕総括官に対し、陸自に日報が個人データとして存在すると回答した。統幕総括官は海外出張中の事務次官に連絡し、陸自に存在する日報は公表に耐えられる代物か不明との事務次官の判断を踏まえ、陸幕運情部長に対し、統幕に存在する日報のみを防衛相に報告すると説明した。統幕総括官は防衛相に対し、統幕に日報が存在することなどを報告した。陸自に存在することについて発言はなかった。

 2月6日、統幕総括官は、自民党行革推進本部に日報などを提出した。統幕は同7日、統幕で日報を発見したことを公表し、民進党国対ヒアリングで日報の管理状況等に関する質問に回答した。

 同8日ごろ、陸幕運情部長はCRF司令部幕僚長に対し、適切な文書管理について依頼した。その後、司令部で保有する複数の日報が廃棄された。同時期、陸幕運用支援課長は陸幕運情部長の指導で、陸幕初対室にある日報を廃棄した。

 同9日、防衛省として、日報の不開示決定の取り消しに関する審査請求の認容を決め、同13日に改めて部分開示を決定した。

 同9日、民進党国対ヒアリングで、日報の削除のログ(コンピューターが保有するユーザーの接続時刻や処理内容を記録したファイル)について議論された。これを契機に、指揮システム端末での日報の取得と削除履歴の確認の依頼がなされ、CRF司令部の一部の端末に日報があり、2月上旬まで陸幕や司令部の複数の端末に日報があったことが確認され、同14日ごろ、陸幕運情部長は陸幕長に途中経過を報告した。

 同15日、陸幕長等は事務次官や統幕総括官に途中経過を報告。その際、陸幕運情部長は、陸自に存在する日報が行政文書として管理されているか不明である旨も説明した。事務次官は陸幕長等に対し、陸自の日報は管理状況が不明確のため防衛相に報告する必要がないとの判断を示した。

 同16日、事務次官は陸幕長等に対し、陸自の日報は個人データであるとの認識により、防衛省として日報を公表しているから情報公開法上は問題ないとし、対外説明の必要はないとの方針を示した。(同13日、統幕総括官と陸幕副長が防衛相に、陸自における日報の取り扱いを説明した。さらに同15日の事務次官室での打ち合わせ後に、事務次官、陸幕長、大臣官房長、統幕総括官が防衛相に対し、陸自における日報の情報公開業務の流れ等について説明した。両日の説明の際、陸自における日報の存在について何らかの発言があった可能性は否定できないものの、日報データの存在を示す書面を用いた報告がなされた事実や、非公表の了承を求める報告がなされた事実はなかった。また、防衛相により公表の是非に関する何らかの方針の決定や了承がなされた事実もなかった)

 同21日、日報に関する論点の説明が行われ、情報公開法上は問題ないとの応答ぶりについても防衛相に了承された。その際、事務次官や統幕総括官から、陸自に日報が存在することについて触れられなかった。

 3月15日、陸自が一貫して日報を保管していたなどとする報道がなされた。同日、防衛相から特別防衛監察の実施が指示され、同17日、特別防衛監察計画が承認された。

 【日報の保有状況】
 陸自職員は過去に約180人、現在(調査時点)でも約30人が日報を保有と回答した。統幕では過去10人、現在8人、内局では過去6人、現在5人が保有と回答した。回答と日報の取得履歴等を検証した結果、大きく矛盾しなかった。

 CRF司令部防衛部、陸幕運用支援課、統幕参事官付でも、昨年12月の不開示決定時点で日報を保有していた。

 【監察結果】
 1 昨年7月19日付の開示請求における不適切な対応
 CRF副司令官(国際)の指導によって、日報は行政文書として存在しているにもかかわらず個人資料とされ、開示対象から除かれた。開示義務(情報公開法5条)違反につながるもので、職務遂行の義務(自衛隊法56条)違反に該当する。

 2 昨年10月3日付の開示請求における不適切な対応
 陸幕関係職員とCRF司令部関係職員は、昨年7月19日付の開示請求で開示しなかった対応を踏まえ、日報を不存在とした。情報公開法5条違反につながり、自衛隊法56条違反に該当する。

 3 日報の管理に関する不適切な対応
 (1)昨年12月の日報の廃棄
 陸幕運情部長は、不開示決定や自民党行革推進本部からの資料要求以降、日報の開示に関する処置を行わず、用済み後破棄を念頭に、掲示板の適切な管理を指導。指導を受け、CRF司令部で掲示板の日報が廃棄された。情報公開法5条違反につながり、自衛隊法56条違反に該当する。

 (2)今年2月の日報の廃棄
 陸幕運情部長は、統幕に存在する日報のみ公表したこととの整合を図るため、CRF司令部関係職員に日報の廃棄を依頼し、司令部で廃棄された。陸幕運用支援課長にも廃棄を指示し、陸幕初対室でも廃棄された。防衛省として統幕の日報を公表するとしており、直ちに情報公開法違反にはつながらないものの適切ではなかった。

 4 日報の存在に関する大臣報告の遅れと対外説明を含む不適切な対応
 陸幕運情部長は統幕総括官に対し、当初、日報は不存在とし、1月下旬には個人データとして存在すると説明したため、関係者の意思疎通に混乱を生じさせた。統幕総括官は、防衛相から日報の再探索の指示を受けたのに、陸幕等に再探索を指示しなかった。その後、統幕総括官は統幕で日報の存在を確認したものの、防衛相への報告に1カ月を要した。かつ、陸自の日報の状況について確認をせず、正確に把握できなかったため、防衛省として適切な対応を取れなかった。自衛隊法56条違反に該当する。

 監察の結果明らかとなった事実関係と当時の対外説明の主要な相違点は以下の2点。

 ・陸自に存在する日報の開示請求に対し、意図的に除いているにもかかわらず行政文書不存在につき不開示と説明した。

 ・不開示決定の判断以降に掲示板から日報を廃棄したにもかかわらず、開示請求前に適切に廃棄されていると説明した。

 5 対外説明スタンスの継続
 事務次官は、個人データと認識したため陸自の日報の状況を確認せず、陸幕長らに対し、日報は防衛省として公表しているので情報公開法上の対応は問題ない旨の対外説明方針を示した。防衛相に対しても問題ないとの応答ぶりについて説明、了承された。その際、事務次官と統幕総括官は陸自での日報の存在については触れなかった。対外説明スタンスを変更する機会があったのに継続したことは自衛隊法56条違反に該当する。

 【改善・再発防止策】
 1 今後海外に派遣される部隊が作成した日報は全て統幕参事官に送り、参事官が整理・保存して一元的に管理し、情報公開請求にも一元的に対応する。保存期間は10年とし、満了後は国立公文書館に移管する。将来の同種事案の絶無を期すとともに、国民への説明責任を誠実に果たす。

 2 今般の事案は、日報が開示請求の該当文書として特定されないことが望ましいとの意図を持ち、行政文書の体を成していないとの指摘があったことも踏まえ、開示されなかったことから、引き続く開示請求でも誤った対応が重ねられ、国民に多大な不信感を抱かせることにつながった。一部職員の情報公開業務に対する誤った認識に基づくものだ。

 情報公開業務を遂行する全職員に法令などの周知を徹底する。研修等を充実し、意識の向上を図る。具体的には(1)「情報公開ハンドブック」を作成し配布(2)採用時からの研修で情報公開業務を必須項目とする(3)中堅や高級幹部への教育を実施(4)定期的に担当者が一堂に会し、研修会に参加する(5)陸海空自衛隊と各機関では担当職員教育を年度四半期ごとに計画(6)全職員が適切な遂行を認識できるよう、業務用パソコン起動時に意識高揚を図る画面を表示する-。

 開示請求の対象文書が不存在との判断に至った場合でも、再度入念に確認。必要に応じて探索範囲を拡大する。具体的には責任の所在を明確にするため、文書管理者がいる全組織に「情報公開実施担当者(仮称)」を置き、請求文書の探索、特定作業等を実施する。

 他の機関で対象文書が保有されている可能性を考慮し、必要な情報を積極的に共有する。

 今後、文書不存在による不開示決定とした全案件について、管理者へのヒアリングや保有可能性のある部局の現地調査を実施する等の権限を有する「情報公開査察官(仮称)」を新設する。

 3 行政文書は健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源であるというのが公文書管理法の趣旨だ。防衛省・自衛隊ではこの認識が強く共有されているとは言えない面もある。幹部のレベルに至るまで教育を実施し、周知徹底を図る。

 PKO活動に係る派遣部隊から上級部隊への報告、部隊から各幕僚監部、内局や政務三役への報告等、日報以外の活動の記録、報告は基本的に保存期間を3年とする。

 日報は取り扱い上の注意を要する文書だったが「注意」の表示がなされていなかった。多数の職員が閲覧できる状況にあり、業務の遂行上、真に必要な場合にのみ利用されるような適切な管理が行われていなかった。文書への取り扱い区分の適切な表示や、アクセス制限をいま一度徹底する。

 複数の部局で同一の行政文書を共有する場合は、文書の1枚目に保存期間や満了日、主要な保存責任者を明記する。

 不断の取り組みとして、「行政文書の管理に関するガイドライン」を今年中に見直す。

 年々増加している防衛省への開示請求(16年度は4694件)に適切に対応するため、体制強化に取り組む。具体的には情報公開業務担当職員を統幕参事官付に増員し、統幕が部隊運用にかかる情報公開関連業務を所掌することを明文化する。内局情個室は企画立案機能を強化する。

 【終わりに】
 防衛省・自衛隊の活動には国民の理解と支持が不可欠。適切な行政文書管理と情報公開業務で国民に説明する責務を全うすることは極めて重要。今回の日報事案で国民に多大な疑念を生じさせたことを真摯(しんし)に受け止め、各種業務の適正性確保に万全を期すべきである。
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