アナウンサーが告げる。「次はあすの県内の地震予報です。マグニチュード(M)5クラスの発生確率は内陸×%、沿岸部は○%となっております。エレベーターの使用はお控えください…」。科学技術の進歩によって、いつの日かこうした地震予知は可能になるのだろうか?
「その問いはがんは治せるのか治せないのか?という問いに似ている」。元地震予知連絡会長の茂木清夫東大名誉教授(81)=河北町出身=は語る。「がん治療は困難なケースも少なくないが、一方で完治できる場合もある。地震予知も観測網の整備などによって相当程度、可能性が高まってきた」
茂木氏によると、もし地球がガラスでできていたら予知は不可能で、あきらめた方がいいという。ガラスは均一な物質で、どこで割れるか予想できない。しかし、ひもは引っ張った場合、ほつれて徐々に伸びるので、観察していればどこで切れるか分かる。「木材も同じ。曲げると完全に折れる前にひびが入ったり、音がするでしょ? だから木材やひものように不均質な地盤では予測可能性が出てくる」。そして「ヨーロッパの地盤はガラス、日本は不均質で木材やひもに近い」。
阪神大震災前年の1994年6月、地震予知連会長だった茂木氏は、地震予知研究シンポジウムで異例のあいさつを行い、OHPを用意して危険性を説いた。100年間の傾向を調べた結果、前半50年間に活発だった西日本の地震活動がここ45年間、静穏化している。警戒が必要だ-。「会長は『シンポジウムの成功を祈る』程度の簡単なあいさつがふつうだが、どうしても気になっていたので」。その後、別の会合で3回、同じ指摘をしたが、だれも関心を持たなかったという。翌年1月17日、大震災が発生、死者は6434人に上った。「もっと強く発信していればよかった。ざんきに堪えない」
茂木氏は「活断層を調査すれば地震予知ができると、過大な期待を社会に与えてはいけない」とも語る。活断層はいわば地殻の古傷。再びすべって地震を引き起こす可能性があるが、千年、万年単位の動きであり、あくまで参考資料だという。「もちろん調査の意義は認めるが、頼りすぎてはいけない」
刻一刻と変化する天気と発生頻度が少ない地震。これまでの蓄積やデータ量からすると、圧倒的に天気予報が有利だ。地震予知に勝ち目はないように見えるが、一つだけ利点があるという。「地震の原因は毎年数センチで移動するプレート運動で、極めてゆっくりした変化だということ。きちんと観測すれば予知につなげられる可能性がある」
地震予知は絶対無理だという人もいるが、「人の命を救い、社会に大きく寄与できる分野。絶対にあきらめてはいけない」。長年追い続けてきた夢を、茂木氏は今も固く信じている。
茂木清夫(もぎ・きよお)氏 1929年河北町生まれ。東大理学部を卒業し東大地震研究所教授、所長を歴任。91年から2001年まで地震予知連会長を務めた。00年、河北町名誉町民に。著書に「地震予知を考える」「とらわれずに考えよう-地震・火山・岩石破壊」などがある。
「地震予知は社会に寄与できる。絶対にあきらめてはいけない」と語る茂木清夫東大名誉教授=千葉県習志野市