断層が初めて人々の注意を引いたのは、いまから100年以上前、産業革命が進むイギリスだった。機械工業に欠かせない動力源・石炭を採掘する際、地質についての知識は大切な要素。「地層の中に挟まれた石炭層は採掘中、急に延長が断層で断ち切れ、途絶えてしまうことがある。こういう事態がたびたび起これば採掘の採算はとれないし、ガス漏れ、湧水、落盤の危険も大きい。断層の実態をとらえることは当時、つよい採鉱上の要請があった」
(金子史朗「活断層 地震の謎をさぐる」講談社現代新書)。
直下型地震
活断層研究の第一人者・松田時彦の著書「活断層」(岩波新書)によると、活断層という言葉が初めて使われたのは1920年代の初期だ。アメリカの地質学者ベリー・ウイリスが、断層の中で特に将来ずれ動き災害の種になりそうなものを「活断層(active fault)」と命名したのが始まりという。
活(い)きている断層。過去に大地震を起こし、今後も再び大地を激しく揺らし人間社会に深刻な打撃を与える可能性がある、その活断層は県内全域に存在する。
1995年の阪神大震災をきっかけに活断層の調査が全国各地で本格化した。政府の地震調査研究推進本部は、本県では庄内平野東縁、新庄盆地、山形盆地、長井盆地西縁という四つの断層帯について長期評価をまとめ順次公表した。それぞれ地震の規模をマグニチュード(M)6.9から7.8程度と想定。東日本大震災のM9.0に比べれば格段に低いが、震源が海域で比較的遠い太平洋プレート型の東日本大震災に比べて、県内4断層帯で発生が懸念されるのはすべて震源が真下となる直下型地震。阪神大震災は大都市での直下型地震ということもあり、M7.3で死者6千人を超える当時としては戦後最大規模の被害となった。県内四つの断層帯もひとたび動けば、いずれも大きな災害につながる恐れがある。
山形県がまとめた被害想定では、庄内の断層帯で地震が発生した場合、建物の全壊が1万781棟、死者915人、新庄は全壊1295棟、死者110人、山形は全壊3万4792棟、死者2114人、長井は全壊2万2475棟、死者1706人-としている。
山形県の活断層帯と周辺の主な被害地震(地震調査研究推進本部作成)
「安全神話」
「近年、本県では大きな地震被害がないため、山形は安全だという声をよく聞くが、それは“神話”にすぎない」。山形大教授の八木浩司は独特の表現で警戒の必要性を訴える。「山形盆地断層帯北部の今後30年以内の発生確率は最大8%で、全国的にみても高い。断層上には学校などの公共的な施設を造らない、家庭では家具を固定したり非常食や水を用意する、災害時に介護が必要となりそうな人を地域で把握し連携するなど、安全神話に頼ることなく、日ごろから備えておく必要がある」
=敬称略
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