山形盆地断層帯の北端・駒籠-横山断層に位置する大石田町横山地区。2005年秋、町営里山スキー場と里集落で、地面を掘り下げ地震の活動履歴を探る調査が行われた。活断層の存在が推定される場所で溝(トレンチ)を掘る手法であることから「トレンチ調査」と呼ばれる。
実施したのは産業技術総合研究所活断層研究センター。同センター主任研究員として調査を主導した遠田晋次(45)=現京都大地震予知研究センター准教授=は振り返る。「山形盆地断層帯は政府の地震調査研究推進本部が02年に評価結果を公表したが、人口の多い山形市周辺を走っている重要な断層であり、さらに詳しく分析するのが狙いだった」
危険な数字
遠田らの調査では、トレンチで露出させた地層の観察と堆積物の年代測定から、(1)過去1万年に大きな地震が6~7回発生(2)活動間隔は1400~1500年(3)最新活動時期は1500年から2800年前であること-が分かった。「日本列島の逆断層の中で過去の地震の痕跡がこれだけ読めたトレンチは珍しい」と遠田。地震調査研究推進本部は遠田らの調査結果を受け、07年に一部改訂した評価結果を公表した。
遠田は「特に最新活動時期が重要」と強調する。遠田によれば、最新の地震が1500年前に起きたとすれば、現代は既に平均活動間隔(1400年から1500年に1回)を過ぎていることになる。つまり、「大地震はいつ発生してもおかしくない」という結論が導き出される。
遠田らは山形盆地断層帯北部の今後30年以内の発生確率を「3~14%」と算定した。「14%という数字は日本で最も危険とされている糸魚川-静岡構造線断層帯と同程度の確率」
ところが、地震調査研究推進本部は一部改定で、発生確率を最大8%と低く見積もった。なぜこうした違いが生じたのか。「横山で実施した2カ所の調査のうち、スキー場トレンチを評価対象から外したため」。遠田は相違の理由をそう語る。「逆断層の地層は通常、下盤側がめくれ上がるが、スキー場の地層は逆に下盤側が落ち込んでいた。そこで、推進本部は、活断層とは認め難いと判断した」。しかし、遠田は「こうした地層の変位は自然にできるものではなく、大地震の痕跡であることは間違いない」と断言する。
大石田町のスキー場周辺で行われたトレンチ調査。地震調査研究推進本部の評価対象からは外された(遠田晋次准教授提供)
見解の違い
「一般の人は『発生確率○×%』という結果だけを注目しがちだが、裏側にはこのケースのように研究者による見解の違いや、曖昧な証拠があったりする」と遠田。ただ、推進本部が示した「最大8%」という数字でも全国的に高い数字であることに変わりはない。「内陸の活断層による大地震は前触れなく突然襲ってくる。被害を想定して、しっかり準備する必要がある」。遠田は警戒を呼び掛ける。=敬称略
【ズーム】逆断層 地震を引き起こす断層運動の一種。水平方向から圧縮される力によって地層が上下にずれるものをいう。圧縮力によるひずみを解消するため、断層面を挟んで片側の地盤が、もう一方の地盤にのし上がる。これに対して、岩盤が水平方向に引っ張られることで上下にずれる運動を「正断層」と呼ぶ。
もっと見る
もっと見る
もっと見る
もっと見る