1995年の阪神大震災をきっかけに本格的に始まった活断層調査。政府の地震調査研究推進本部は全国110の活断層について調査研究成果を公表、国土地理院は全国各地の都市圏活断層図を作成し、それぞれ地震への警戒を呼び掛けている。しかし「把握されている活断層は氷山の一角。これまで見つかっていない所にも活断層がある可能性が高いことを知ってほしい」。山形県活断層調査委員会の委員長を務めた山形大名誉教授の山野井徹は訴える。
未記載の断層
地震調査研究推進本部が長期評価を公表している本県の断層帯は「庄内平野東縁」「新庄盆地」「山形盆地」「長井盆地西縁」の4カ所。都市圏活断層図は「庄内北部」「村山」「山形」など8面作成されている。山野井によれば、以前工事によって顕著な逆断層が見つかった山形市すげさわの丘は、都市圏活断層図では、近くに断層ラインが引かれているものの、発見箇所には断層線が記載されていない。
一方、都市圏活断層図で活断層とされている寒河江市の高瀬山は、山形自動車道の工事で掘削されたにもかかわらず、地層に変位は認められなかった。「高瀬山の例では近くで明瞭な活断層が見つかったが、山そのものは断層によって盛り上がった地形ではなく、最上川の侵食崖と考えるのが妥当」と山野井。
都市圏活断層図は、まず空中写真判読によって活断層「地形」を抽出するが、実際の活断層は侵食や土地利用などによって変位が消滅し、表面上は分からないものも少なくないという。
山形市すげさわの丘で見つかった活断層露頭。こうした顕著な断層でも国や県の評価対象にはならないという(山野井徹氏提供)
未知の地域で
死者6千人を超える大惨事となった阪神大震災を引き起こしたとされる野島断層は、研究者の間では発生前からその存在が知られており、活断層がクローズアップされる契機となった。地震調査研究推進本部がまとめた「日本の地震活動」では「陸域の大規模な被害地震は既に知られている活断層で発生した場合が多い」とする。しかし「活断層が知られていない地域で地震が発生した例もある」とも記す。
活断層の多くは、平野部から山地に移行するような境界で発見されている。その理由を山野井は次のように説明する。「山中は降雨や雪解け水によって地滑りや崖崩れが発生し侵食が激しい。平野部は洪水などによる堆積物で変位地形が埋もれてしまう。しかし、山と平野の境界部分は地形的に中立で、断層地形が残りやすい」
山野井は「これまでの活断層研究や調査はもちろん意義がある」と評価する。しかし、一方で「(従来の調査で)あたかも全ての断層を把握したと錯覚を与えるのであれば、それは有害な過小評価と言わざるを得ない」と警鐘を鳴らす。「われわれが生活している山や平野は地震によってできたと言っていい。侵食や堆積物によって地形上は失われてしまった活断層があることを意識して、大地震に備えるべきだ」
=敬称略・第1部おわり
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