1995年の阪神大震災以来、一般の人にもその名前を知られるようになってきた「活断層」。研究は日々進化し、これまで数多くの断層が新たに確認されてきた。昨年発見された長井市の今泉断層もその一例だが、一方で「消えた」活断層もある。米沢市西部を流れる小樽川(鬼面川)沿いを東北東に走るとされた「小樽川断層」だ。
91年に発行された「新編日本の活断層」(東大出版会)では、小樽川断層を「活断層であることが確実なもの」として紹介。石切山から神原方向に掛けて、小樽川の左岸約6キロにわたり、断層を示す赤いラインを引いた。この本は松田時彦ら、活断層研究の第一線で活躍する日本の研究者たちが地震災害の軽減を願ってまとめた労作だ。
浸食地形と判断
凡例では活断層を「確実なもの」「推定されるもの」「疑いのあるもの」と三つに分類。小樽川断層はそのうち最も確実度が高い「確実度Ⅰ」とされた。調査を担当した東北大教授の今泉俊文は「複数の目でチェックし、川沿いに崖が続くことから『確実』とした。10年前の版でも同様の判断をしており、8~9割間違いないだろうと考えた」と振り返る。
しかし、山形県が2001年にまとめた「長井盆地西縁断層帯に関する調査成果報告書」では「浸食地形である」として活断層との見方を否定した。当時、県活断層調査委員会のメンバーとして議論に加わった元山形大教授の阿子島功は語る。「『小樽川断層』は地面のへこみと崖が直線上に続き、見た目は断層地形だが、『断層』を横切る支流の谷底に変位が見られなかったため、軟らかい地層が浸食されてできた地形と判断した」
政府の地震調査研究推進本部はこれを踏襲、05年に公表した長期評価で「小樽川断層は県の調査の結果、活断層ではない可能性が高まったことから評価対象に含めなかった」とした。
米沢市西部を流れる小樽川(鬼面川)。左岸(写真左)に沿って断層があるとされたが、その後の調査で否定された
引き続き要警戒
ところが、である。活断層研究は日進月歩だ。小樽川周辺では「新編日本の活断層」発行後、新たな断層が確認された。川西町大舟から米沢市の下屋敷を通り抜ける南北走向の断層。地震調査研究推進本部の長期評価では「下屋敷付近の断層」として記載。昨年11月に発行された都市圏活断層図でも「位置はやや不明確」としながらも活断層を意味する赤い破線が記された。阿子島は「周辺では引き続き注意が必要だ」と語る。
今泉は「活断層を記した資料はさまざまあるが、百パーセント正しいわけではない」とする。一方で、「線のある場所は繰り返し地震が起きている可能性が高い。だからこそ詳しい調査を行い、防災に役立てることが大切だ」と訴える。
一度は消えた「小樽川断層」だが、阿子島は「例えば支流の川底で地層が切れている破砕帯が発見されるなど、新たな資料が見つかれば再認定されることもあり得る」と話す。
過去に繰り返し活動し、将来も大地震を引き起こすことが予想される活断層。その研究は近年大きく進展してきたが、解明できていない部分はまだまだ多い。=敬称略
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