地殻変動は地球が「生きている」証拠。大地震や大津波、噴火を引き起こす、人間にとって忌むべき現象だが、地球は人類が誕生するずっと以前から、地殻変動を繰り返してきた。大地の動きは地球の「鼓動」。元来自然現象であり、人が生活する場所で起きて初めて「災害」となる。
しかし、大自然は災害だけをもたらすのではない。例えば石油。資源の少ない日本にとって石油は貴重な存在で、庄内地方ではこれまで多くの油田が開発されてきた。「油田は庄内や新潟、秋田のように褶曲(しゅうきょく)構造が発達する場所に多く見られる。石油はいわば地殻変動の恵みとも言える」。変動地形学が専門の山形大教授・八木浩司は語る。
産出する条件
褶曲は大地が東西から圧縮されることによって地形や地層が波状に変形する現象。なぜ褶曲地帯で石油が産出するのか。石油資源開発本州探鉱グループ長の稲葉充は説明する。「油田に必要な条件は主に二つある。一つはプランクトンなどの有機物が堆積してできた根源岩(ソースロック)。もう一つは背斜構造(褶曲のうち盛り上がった部分のこと。へこんだ部分は向斜という)。庄内はこの条件を満たすポテンシャル(潜在能力)の高い地域なんです」
庄内では1934(昭和9)年に鳥海山油田が発見され、64年の閉山まで原油約7万キロリットルを生産。戦後も楢橋、石名坂、新堀、余目油田と相次ぎ開発された。稲葉によれば、庄内の油田でこれまでに産出した累計生産量は約110万キロリットル。余目油田は現在も原油と天然ガスを生産し地元で販売されている。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構によると、石油は炭素と水素が複雑に化合した有機物。太古の時代、植物や生物、プランクトンなどの死骸が堆積し、長い年月をかけて化学分解されたものだ。「油は水よりも軽いため岩石中の隙間をすり抜けて上に移動するが、おわんを逆さまにしたような背斜は、石油をため込むふたの役目を果たす」と八木。
稲葉は言う。「石油はかつて深い海だった場所で産出される。例えば岩手や宮城の陸域も庄内と同じように深い海だったが、プランクトンをたくさん含んだ泥岩が深く沈まなかったため石油が出ない」。さまざまな条件がそろわないと生まれない奇跡の産物、神様の贈り物、それが石油だ。
鳥海山南麓で行われている物理探鉱調査。起振車を使って地下構造を探る
新たな可能性
石油資源開発は現在、石油・天然ガス産出の新たな可能性を探るため、鳥海山南麓で物理探鉱調査を行っている。起振車(バイブレータ車)という特殊車両を使って地下に振動を送り、20メートル間隔で道路脇に設置した受振器でキャッチ、地下構造を浮き彫りにする反射法地震探査。今年は11月6日まで実施する予定だ。
同社は10月3日、秋田県由利本荘市の「鮎川油ガス田」で国内で初めて地下の岩盤に含まれる新型の原油「シェールオイル」採取に成功した。「石油・天然ガス開発は俗に『千三つ』。千回に三つ当たればいいとも言われるが、安価で安定した資源が国内で生産できれば産業活性化に大きく寄与できる。夢のような話だが、ぜひ実現させたい」。稲葉は力を込めた。=敬称略
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