山形新聞は地方創生の礎となるフル規格新幹線の整備実現に向けてキャンペーンを展開している。今回はルポを中心に、所要時間や料金、運行本数など「利用者の視点」から見た山形新幹線の課題を特集する。
通勤電車とは違い、車両内は背もたれがある座席で埋め尽くされ、つり革はない。故に「新幹線」は「座って乗る電車」と、かみしめる時期がある。年末年始や、お盆の時期。山形新幹線のホームは長い行列ができ、列車内の通路やデッキも乗客で埋まる。正月を山形県で過ごした人が首都圏に戻るUターンのピークとなった3日、山形駅始発の東京行き「つばさ号」に同乗した。
午前9時半。切符売り場内には「本日の指定席は終日満席」の張り紙。それでも指定席がないか聞く。まれにキャンセルが出ることもあるが、現時点でその情報はないとの回答。やむを得ず、自由席チケットを取得しホームへ。
新庄駅始発で午前10時に山形駅に着く列車は、天童駅の時点で「乗車率120%」との情報が入る。どんなに混んでいても「座って」行くことにこだわり、後発の列車を選んだ。続く同41分発の臨時列車は、すぐに並び始めれば何とか座って乗れるようだが…。
確実を期すため2本後の午前10時57分の列車の列に並んだ。記者のすぐ前に並んでいた山形市内に住む女性は「東京都内で働いている娘を見送りに駅まで来た」という。並んでいたのは「何とか座って帰らせたいため家族総出で来た」が理由。各出発時間帯、自由席がある16、17号車にそれぞれ分かれて並び、座れそうな列車に乗せるという。「座席数が多いと、こんな苦労もないのに」
同じく仙台駅で同乗ルポをする別の記者から連絡が入った。ホームは混み合っているが、ほぼ10分間隔で列車が来るので行列はすぐに解消されるとのこと。女性に伝えると「同じ新幹線と呼んでいるのにずいぶん違うね」とほほ笑んだ。
先発の同41分の列車が出発。立って行く人はいなかったが、自由席は満席。やはり出発の1時間前から並ぶ必要があるようだ。記者が乗った列車は山形駅発の時点から自由席がすべて埋まり、デッキも“満員”、通路にも4人の乗客がいた。昼にかけ混雑は頂点になるようだった。
かみのやま温泉、赤湯、高畠の各駅からも多くの乗客が乗り込む。特に米沢駅からは山形駅に次ぐ数の人が乗り込んできた。ぎゅうぎゅう詰めのまま「板谷越え」。福島―米沢間は山形新幹線開業時から安全性、快適性を踏まえた改修が行われたが、基本は在来線。カーブ、線路の継ぎ目でガクッとした揺れが起こる。
座っている人も気になるが、立っている人はたまらない。突然の揺れにバランスを崩す。当然、つり革などはない。辛うじてつかむのは座席の背もたれ。「すみません」と、席の人にひと言。一瞬、気まずい空気が流れるが、当然、座っている人も苦労が分かるので「大丈夫」と気遣う。
年末年始などの繁忙期はどの新幹線も混む。「だから、みんな一緒」と言えるだろうか。東京までを想定した場合、仙台駅からなら2時間、福島駅なら1時間台で済む。山形新幹線が要する約3時間は、東北新幹線で換算すると青森―東京間に匹敵する。
始発からデッキに立っていた男性(64)がいた。山形市に実家があり、住まいがある群馬県館林市に帰る途中。「座席数が少ない上に時間がかかる。立った状態だと理想は1時間半。年を取ると2時間でもきつい」とため息をついていた。
(「山形にフル規格新幹線を」取材班)
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