当初「乗り換えなし」が売りだった。「なのに」である。JR福島駅で山形新幹線のつばさ号と東北新幹線のやまびこ号が連結、解除された後のわずかな時間に「つばさからやまびこへ」「やまびこからつばさへ」乗り移る人がいる。つばさ号の座席数が少ないが故の切実な光景。会員制交流サイト(SNS)上では「福島ダッシュ」とやゆされる。帰省ラッシュがピークを迎えた2016年12月30日の様子をルポする。
東京発の「やまびこ・つばさ号」がつばさ号を先頭にして福島駅に入線した。50代会社員男性は、お土産の入った紙袋を手に足早にやまびこ号を降り、最も近いつばさ号のグリーン車に乗った。指定席車両の12~15号車通路を通り、前方の16、17号車にある自由席へ。空席を見つけホッとした様子で腰を下ろした。帰省で山形市の自宅に帰るという。「混んでいる時は、いつもこうしている。やまびこ号の方が自由席数が多いから」
男性は言う。「福島までの駅で降りる人は、なるべくやまびこ号に乗ってもらうようJR側で利用者に呼び掛けてもらわないと」。新幹線の車両はホームの長さなどの影響で「やまびこ・つばさ号」は最大で17両編成となっている。
うち、つばさ号は7両、やまびこ号は10両。自由席はつばさ号が2両に対し、やまびこ号は3~6両。つばさ号は、ただでさえミニ新幹線規格の車両でフル規格車両に比べ乗車人員が限られる。単純に比較すると1両当たり、つばさ号が最大68席に対し、やまびこ号(E2系)は100席だ。
同じ日の上り列車。東京行き、つばさ号の自由席で父親と息子が会話をしていた。「自由席で座れなかった時は福島駅でやまびこ号に乗り換える人もいるんだよ」。父親の話は「福島ダッシュ」だった。「実際にこれまで1、2回、『福島ダッシュ』をしたことがある」と山形市松波1丁目、山形大准教授男性(44)は振り返る。
東京出張の帰り。特に金曜日は混雑する。つばさ号の指定席が取れず、自由席も座れそうにない時、取りあえず、やまびこ号に乗る。たいてい座れることが多い。「どうせ“立ち乗り”になるなら、できるだけ短い時間にしたい」
下り列車で郡山駅を出て福島駅までは約15分。「間もなく福島です」との車内アナウンスが流れると、同じ“福島ダッシュ組”とみられるサラリーマンらは、やまびこ号で準備を始める。つばさ号とやまびこ号の連結が外れ、それぞれの目的駅に出発するまでの時間はわずかだからだ。扉が開いたら、小走り。親子連れは走る。「ホームを走らないでください」は世界共通のマナー。故に駅員の表情は渋い。だが、乗り遅れるわけにいかない。
「乗り換えなしで東京へ」。山形新幹線の開業当初、このフレーズがキャッチコピーだった。だが開業前と同じ皮肉な光景が、かつての乗り換え駅だった福島駅で繰り返されている。
(「山形にフル規格新幹線を」取材班)
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