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やまがた観光復興元年

第3部・変貌する温泉地[3] 逆風の中、成長するタカミヤ

2014/3/30 10:56
老舗旅館を再生した「高見屋別邸久遠」のロビー。約180平方メートルの広さがあり、非日常の空間を提供している=鶴岡市・あつみ温泉

 海を望むレストランでイタリアン・フレンチを味わい、エステ、岩盤浴でくつろぐ「湯の浜テラス西洋茶寮」(鶴岡市の湯野浜温泉)。モダンテイストの上質空間を提供する「高見屋別邸久遠(くおん)」(同あつみ温泉)。いずれも山形市蔵王温泉を拠点とするタカミヤホテルグループが、廃業旅館などを再生して展開、顧客を集める。

 温泉地への観光客が減少し、全国で旅館数自体が減る逆風の中、同グループは成長を遂げている。深山荘高見屋をはじめとする蔵王の4施設に加え、2006年に蔵王に「瑠璃倶楽(るりくら)リゾート」(旧防衛庁保養所)、湯野浜に西洋茶寮(旧県信用金庫組合保養所)を、11年に久遠(旧つたや長兵衛)、12年に米沢市小野川温泉に「匠味庵山川」(旧ホテル山川)を開業。13年7月からはヤマコー(山形市)が米沢市白布温泉に所有する「山の季」の運営を受託し、計九つの宿泊施設を営む。

 同グループの再生は、時に数億円という費用を掛け“タカミヤ流”に改修するのが特徴だ。蔵王以外で最初に手掛けたのが「大人の隠れ家」をコンセプトとした西洋茶寮。白で統一した特別室には、オーシャンビューのプライベートバスを備え、ロビーには、世界的工業デザイナー奥山清行さん(山形市出身)の作品など洗練されたインテリアを配置。保養所だった雰囲気はどこにも残っていない。カップルや女性客に受け、貸し切りパーティーでも利用されている。

 西洋茶寮(鶴岡市)は保養所の活用方法を模索していた金融機関から、匠味庵山川(米沢市)は後継者がいなかった前身のホテル経営者からなど、相談を受けてタカミヤホテルグループ(山形市)が経営に乗り出すケースが多い。閉鎖施設などを再生するのは簡単ではないが▽良質な温泉がある▽温泉街の入り口に位置する老舗旅館―など守りたい要素があった。「こう変えたらお客さまに喜んでもらえるのではないか」。岡崎弥平治社長(58)には思い描くプランもあった。

保養所を再生した「湯の浜テラス西洋茶寮」。海を望む明るいレストランでは貸し切りパーティーが行われることもある=鶴岡市・湯野浜温泉

■「地元と歩む」

 新たな地域に参入するに当たっては「地元と歩む」ことを大切にしたという。清掃活動や祭りなどの行事に率先して参加。あつみ温泉(鶴岡市)の久遠(くおん)なら、宿泊客に温泉街で行っている雛人形巡りを紹介するなど、地域の情報発信にも積極的に取り組む。

 同グループが進出することで「新しい客層を創出できたのでは」と岡崎社長は言う。西洋茶寮は周辺になかった岩盤浴で若い女性客を呼び込んだ。久遠では、プライベート重視の生活スタイルへと変化していることに合わせ、宿泊客と“いい距離感”を保つ接客を選択。コーヒーの提供などはロビーで行い「お客さまが買い求めた空間」(高橋勇支配人)である客室には入らずにくつろいでもらう。客室で細やかな接客を行う周囲の日本旅館とは、ニーズの異なる宿泊者がリピーターだ。

 戸沢村からの働き掛けを受け、11年に営業停止した滝沢屋(草薙温泉)の再建にも意欲を示す。実現すれば県内4地区すべてに拠点を持つことになる。これにより、別の地域の観光資源も生かした誘客が可能になるという。

 例えば蔵王はスキーシーズンに満室になることがあるため、樹氷観賞の観光客には小野川温泉に宿泊してもらったり、樹氷観賞と戸沢村の最上川舟下りをセットで楽しむ宿泊プランの提供も可能になる。「地域によって混雑期が異なる。広域で対応すればより多くの観光客を受け入れられ、広域観光ルートを育てることもできる」と岡崎社長は力を込める。

■観光地の課題

 外国人からも人気が高い樹氷は、これまで以上に生かすべき資源と注目する。「当社だけでなくオフシーズンの各温泉地で受け入れれば、山形全体の振興につながる」。同様に、県外を含めて各地の観光資源を生かし、別の地域でも宿泊客を受け入れる態勢ができれば、オンシーズンはにぎわうがオフシーズンは閑古鳥が鳴くという、長く観光地が抱えてきた課題をクリアできる。広域で事業展開してきたから見えた手法だ。

 温泉街づくりへの関心も高める。全国の観光地間競争は激しさを増している。「選んでもらうには温泉街そのものの魅力を磨くことが不可欠」と岡崎社長。県内各地に足場を持つからこそ、提案できることがあると考えている。

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