やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第8部・DC検証[4] 地域資源の活用(上)

2014/9/20 11:21
この夏、各地で行われた“冷たい”もてなし。暑さを乗り切る本県の知恵と文化も発信された=8月10日、山形市・山形まるごと館紅の蔵

 山形の冷やし文化を楽しもう―。8月10日、山形市の山形まるごと館紅の蔵で、こう銘打った独自の催しが行われた。展示されたボトル入りの冷やしシャンプーに「そんな生活習慣があるんですか」と興味津々の観光客や、氷柱に閉じ込められた夏野菜を夢中で取り出す子どもたち。来場者は多彩な「冷やし」を楽しんだ。

 かつて、最高気温全国1位の記録を維持し、夏の暑さが厳しい本県では「冷やし文化」が発達した。山形デスティネーションキャンペーン(DC、6月14日~9月13日)では、この生活文化に着目した新たなもてなしが各地で展開された。

 村山地域7市7町の行政と観光協会などで組織するやまがた広域観光協議会は「暑(あ)っつい夏の冷(つ)ったいおもてなし」事業を7、8月に初めて企画。冷たい肉そばや夏野菜を刻んだ「だし」、冷やしシャンプー、尾花沢特産のスイカを資源として活用した。

 河北町では6店舗が冷たい肉そばや冷やしラーメン、だし、冷ややっこなどを組み合わせた特別メニュー(千円)を用意。冷やしシャンプーは、山形空港と紅の蔵、足湯付きの山形新幹線「とれいゆ」の一部で体験チケットを配布。置賜、庄内、最上地域を含む各地の理容室70店舗で、チケット持参者に冷やしシャンプーを500円で提供した。通常料金は千数百円。差額分は理容室が負担した。

 観光とは縁遠い産業と考えられてきた理容業の協力があってこそ実現できたもてなし。山形DCで掲げられた「県民総参加、全産業参加」を象徴する事業としても注目を集めた。

おくのほそ道尾花沢そば街道の加盟店では、特産の尾花沢すいかを振る舞った=8月14日、尾花沢市・手打ちそば たか橋

 家族6人で本県に観光に訪れた岩手県奥州市の公務員藤村優貴さん(35)。尾花沢市内の飲食店に入り、そばを注文すると、間もなく冷やしたスイカが出てきた。「尾花沢のスイカ、んまいがら。食べで待ってでけらっしゃい」と店員。藤村さんは「おいしいとは聞いていたけど食べる機会がなかった。特産品を使ったおもてなしはうれしい」と笑顔を見せた。

 ■特産品アピール

 「冷(つ)ったいおもてなし」事業の一環だ。尾花沢市では、銀山温泉の来訪者先着千人へのサービスとして優待チケットを配布。市内の「おくのほそ道尾花沢そば街道」加盟11店舗でチケットの提示者にスイカやスイカアイス、サイダーを振る舞った。

 尾花沢は夏スイカ日本一の産地ながら、カットした1ピースで食べられるのは直売所など一部だけだったという。核家族化が進む中、丸ごと1個を買うのをためらう観光客も多い。気軽に食べられる機会を設けることで、消費拡大につなげられないか。事業には、そんな狙いも込められていた。無料振る舞いなら規格外のスイカも利用できる。

 8月1~17日の期間中、約120組がサービスを受けた。同そば街道の高橋晃治会長(62)は「喜んでもらえただけでなく、銀山温泉に来た多くの観光客を市街地に誘導できた。今後も銀山との連携を考えていきたい」と先を見据えた。

 冷ったいおもてなし事業で最も協力店舗が多かったのが、冷やしシャンプー体験。県理容生活衛生同業組合講師会の有志で組織する推進協議会が普及に取り組んできた山形発祥の夏の風物詩だ。活動開始から十数年が経過し、メディアへの露出も増えて全国に知られるようになってきた。

 ■夏のリピーター

 同協議会の植松行雄代表(59)=東根市、ミヨシ理容室代表=は、冷やしシャンプー目当ての県外客の増加を実感している。宮城県など隣県を中心に、肉そばと併せて楽しむ観光客が多いという。数年前に愛知県から3世代6人で立ち寄り、爽快感を経験した家族は、夏のリピーターになった。冷やしシャンプーは、旅の目的になりつつある。「チケットの配布場所を増やせばもっと来ていただける」と植松代表。提供できる理容室は県内全域にあり、周遊素材の一つになり得る。

 いずれのもてなしも、いかに継続、拡大できるかが課題だ。事業を実施したやまがた広域観光協議会の事務局・県村山総合支庁観光振興室の武田剛室長(57)は「来年6~9月に開催されるポストDCの夏の中心企画として取り組めるよう検討したい」と構想を描いている。

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