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やまがた観光復興元年

第8部・DC検証[5] 地域資源の活用(中)

2014/9/23 11:25
天神湯野沢鹿の子踊など県内各地に根付く舞や踊りが披露された「伝統芸能のつどい」。山形の文化の魅力を発信した=6月21日、山形市

 国重要無形民俗文化財に指定されている河北町の林家舞楽、各神社に伝わる長井市の黒獅子舞に華やかな花笠踊り。県内の伝統芸能、祭りが次々と披露されると、会場は熱気に包まれた。6日、天童市内で開催された「杜の賑(にぎわ)い」。2回の公演に4100人の観客が詰め掛けた。

 「地域の特色が出ていて素晴らしい」(栃木県・76歳女性)「県内の民俗芸能、祭りを一度に見られて良かった」(宇都宮市・33歳男性)「他県の公演も見たが山形は伝統的な演目が多く、奥深さを感じた」(福島県・71歳女性)。観客は口々に語った。

 杜の賑いは大手旅行会社JTB(東京都)のオリジナルイベント。1982(昭和57)年から沖縄県を中心に各地で開催し、124回を数える。公演鑑賞と開催地域の観光を組み合わせた宿泊ツアーを企画する。鑑賞者の多くが県外者で、今回もチケットの約8割は県外で販売された。それだけ吸引力の強い素材で、固定ファンも多い。

 今回の山形デスティネーションキャンペーン(DC)では、時代を越えて受け継がれてきた民俗芸能や祭りの魅力が再確認され、さまざまな機会に披露された。県などは6月に山形市の目抜き通りで実施した第3回日本一さくらんぼ祭りで「民俗芸能のつどい」を同時開催。天神湯野沢鹿の子踊(村山市)など13団体が登場した。前年、4団体の出演で約800人だった観客は約3千人に膨らんだ。その地に行かなければ見られない伝統芸能は、来県してもらうための強力な素材となる。

岩根沢三山神社の例大祭で奉納される岩根沢太々神楽。東北最大級の木造建築物といわれる社殿での上演にこだわり、観光客を受け入れている=西川町

 西川町に伝わる岩根沢太々神楽(だいだいかぐら)。民衆が演じる里神楽で、神々を模した面を着けて舞う。出羽三山の登拝口の一つに建つ岩根沢三山神社の例大祭などで披露されてきた。県内での知名度も高くないが、山形デスティネーションキャンペーン(DC、6~9月)期間に首都圏からツアー客120人超を呼び込んだ。

 ■伊勢で奉祝奉納

 光が当たるきっかけは、地元住民で組織する保存会が、伊勢神宮(三重県)の式年遷宮を記念した奉祝奉納行事の出演団体に応募し、選ばれたことだ。「惰性でやっていた部分があった」と会員自らが言う活動は一変。稽古を重ねて2013年11月に奉納した。各地から招かれた百数十団体の中には国指定重要無形文化財の伝統芸能も。会員らはそれらと肩を並べることができた郷土の文化の価値を再認識した。「神楽は全国に誇れる宝。地域があって初めて将来に残せる。保存活動を通じて人、地域づくりにつなげたいとの思いが高まった」と岩本寿一会長(56)は振り返る。

 会員の思いはDC向けの事業を模索していた町や観光協会に伝わる。両者は神楽を誘客につなげられないかと今年2月から急きょ、大手旅行会社に売り込みを始めた。式年遷宮記念行事で奉納したこと、出羽三山参拝は「西の伊勢参り」に対する「東の奥参り」として江戸の庶民の憧れだったこと。各社を訪問した町商工観光課の吉見政俊課長補佐(48)らは熱っぽく語った。

 訪問先の一つクラブツーリズム(東京都)。既に春夏の旅行商品が出来上がっていた時期だが、対応した担当者は観光素材としての可能性を感じた。同社は式年遷宮に多くの観光客を送り込んでいた。伊勢とつながるこの素材は、同じ客層に受けるのではないか。「東の奥参り」というフレーズも心に響いた。すぐに商品化し、6~8月に4本のツアーを実施。多い日は大型バスが2台連なった。

 上演場所は岩根沢三山神社にこだわった。奉納が本来の姿で、国重要文化財である神社社殿も誇りだからだ。文化が根付く場所で、隠れた宝を見つけたかのように喜ぶ観光客の姿は、地元関係者の励みになった。

 ■身近な所にも宝

 DCはJRと地元自治体や観光事業者がともに行うキャンペーン。しかし小規模自治体の担当者である吉見補佐の中には、JRや県の動きに頼る思いがどこかにあったという。行動し、認識は変わった。「身近な所にも宝はある。それを自分たちで掘り起こし、磨き上げることが大切。旅行者は有名な観光地には行き尽くしている。日の目を見なかった素材にこそ、チャンスがあるのではないか」。

 伊勢神宮参拝者の興味を引いた岩根沢太々神楽。呼び込むことができる観光客は相当数に上るはずだ。課題は町内の宿泊、飲食につなげられていない点。吉見補佐は同神社近くに残る三つの宿坊をも大切な資源と捉え、その解決に生かしたいと考えている。

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