米ミネソタ州ロチェスター市の総合病院「メイヨークリニック」がここまで成長できた理由は、もちろん医療の質の高さにあるのだろう。だがそれだけではなく、病院のイメージづくりにも多くの労力を割いていることがうかがえる。
メイヨークリニックは大規模な病院にもかかわらず、「クリニック(診療所)」という名前を残している。それは創立者の医師ウィリアム・メイヨーと、その長男ウィリアム・ジェームス・メイヨー、次男チャールズ・メイヨーが同市で1883年に起きた竜巻被害をきっかけに、小さな診療所を始めたことに由来する。
病院を構成するビル群の中で、最も古いプラマービルの入り口は重厚なブロンズ製で開けっ放しの状態。常に門戸が開かれているという意味で“閉じない扉”を演出している。エレベーターの天井には木彫りの装飾が施され、廊下などの重々しい内装も歴史を感じさせるものだ。ビル内の博物館には、彼らが診療を始めた頃の文献や写真、治療器具などが展示されている。
メイヨークリニックのプラマービルには、博物館の他にも病院の姿勢が垣間見える部屋がある。それは黒い暗幕に囲まれ、数台のビデオカメラが並ぶ撮影スタジオ。職員の説明によると、1日に1回はここでCMを撮影し発信するほか、ラジオ番組なども制作しているという。もちろん、フェイスブックやインターネットでの情報提供も欠かさない。それが病院の良いイメージを膨らませているようだ。
山形市医師会の朝田徹理事は「名だたる病院なのだが、それにあぐらをかくことなく最先端の質の高い医療を継続しており、それをよく発信している」と指摘した上で、「それが(病院の)確固たるイメージをつくり、そこで働く医師や看護師が喜んで勤務するという盛り上がりをつくっているのでは」と推測する。
小児科外来は「動物園」をイメージした造りで、壁には診療を受けた子どもたちの絵がパネルにしてはめ込まれていた。そのようなホスピタリティーは随所で感じられる。山形大医学部付属病院の斉藤律子看護部長は「診療を終えるまで、患者が安心し快適に過ごせるようになっている。医療人としての基本だが、私たちもそれをどのような形で表現し、スタッフに浸透させていくかを求めていかなければならない」と語る。
博物館の役割も歴史をつまびらかにするだけでなく、診療待ちの患者や家族がひとときを過ごせるように造られているのかもしれない。そういう意味では、バスによる市内観光ルートもある。病院を建てるきっかけとなった竜巻跡を横目に、修道院や創業者の家を回るツアーだ。メイヨークリニックの歴史が、そのままロチェスター市の歩みにつながっていることを実感できる。遠来の患者もそう思うことだろう。
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