山形再興

第1部・先端研究の求心力 山形大医学部(1)

2018年01月12日
建設工事が進む重粒子線がん治療装置を設置する建屋の現場=2017年9月、山形市・山形大医学部
建設工事が進む重粒子線がん治療装置を設置する建屋の現場=2017年9月、山形市・山形大医学部
 住み慣れた地域で、安心して暮らし続けたい―。それは県民の切なる願いだ。安心の土台となるのは健康。身近な場所で高度な医療を受けられる環境がなければ移住はおろか定住すらおぼつかない。医療は「地方創生」において重要な鍵を握っている。

 本県の医療の中核を担い、県民の生命のとりでとなっている山形大医学部(山形市)。この場所で2020年3月、国内で6例目、東北・北海道では初めての重粒子線がん治療が始まる。さらに、患者の遺伝子に応じて個別の治療計画を立て、効果的な医療を提供するオーダーメード型「ゲノム医療」が、医学部付属病院の全診療科を挙げた取り組みとして近い将来展開されようとしている。

 山形大は04年から重粒子線がん治療施設の設置計画を進め、06年には放射線腫瘍学講座を開設するなど、先駆的にがん医療に取り組んできた。重粒子線がん治療施設の導入は、患者への先進医療の提供はもちろん、同大で医師を志す学生らの誇りになってほしいとの願いも込められている。

 「世界トップクラスの医療をやることが大事。それが地方創生につながる」。同大医学部長、国立がん研究センター理事長などを歴任した嘉山孝正医学部参与は常々、こう強調する。

患者本位の治療を実現するため、医療スタッフは多角的な検討を行う=2017年2月、山形市・山形大医学部
患者本位の治療を実現するため、医療スタッフは多角的な検討を行う=2017年2月、山形市・山形大医学部
 重粒子線がん治療の導入は、本県の医療に画期的な変化をもたらすだろう。従来の放射線がん治療と違い、体の深い部分まで照射できるため、腫瘍を効率的に死滅させることが可能になる。比較的少ない回数の照射で済み、短期治療に適するため、身体的な負担の軽減も期待される。嘉山孝正山形大医学部参与は「治療は、日常生活の質を保つことが重要」と強調する。こうした先進医療を求め、国内外から患者やその家族、研究者が本県を訪れることが予想される。

 重粒子線がん治療に関して同学部は、国立がん研究センターの2009年のデータに基づき、本県を含む東北6県の治療適応数を年間2838人になると見込む。病院までの距離や人口規模などを考慮した年間来院予測数は、宮城県の300人が最多で、本県は183人。全体では計774人と分析している。病院経営上は約600人を目標としており、どのようにして実際に患者を呼び込むかが鍵となる。

 同大は、東北地域の大学病院など70カ所近い施設と広域がん放射線治療ネットワークを構築し、連携体制を強化してきた。嘉山参与らは東北地域や新潟県の大学病院を訪れ、重粒子線がん治療の効果を周知し、治療が有効な場合は患者を紹介してもらう努力を続けている。

 一方、新たな取り組みとして期待されるのはゲノム(全遺伝情報)解析に基づく治療だ。同じ疾患に対する治療でも患者の遺伝子が異なれば、治療の効果や副作用の症状が異なることが分かっている。ゲノム医療が標準化されれば、がん治療での副作用を最小限に抑え、医師が最善の治療法を選択できる環境が整う。「最も効果的な治療法を探る」(嘉山参与)ことで、より患者本位の医療が提供される。同大付属病院は「ゲノム病院」として患者個々の遺伝子に対応したオーダーメード型治療を実践していく方針で、全診療科を挙げた体制づくりは全国の大学病院に先駆けた取り組みという。

 近い将来、重粒子線治療とゲノム医療という二つの大きな先進医療を提供することになる山形大。先進医療の展開によって国内外での同大の認知度や信頼度を高め、患者や研究者の受け入れなど多岐にわたる分野での波及効果が期待される。地域に根差す大学病院として嘉山参与は「手間が掛かっても、患者のためになる先進治療を最優先に実践していく」と決意を示す。それはすなわち、山形県に人を呼び込む役割を担う意思表示でもある。
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