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山形再興

第1部・先端研究の求心力 山形大医学部(2)

2018/1/13 11:42
地域を支える医者を目指す渡辺大史さん(左)と野口美貢さん=山形市・山形大医学部

 団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」が迫っている。高齢化が進展し、医療や介護、福祉の需要がますます多様化していくのに伴い、それに携わる人材の不足も懸念される。本県の医療の担い手として期待される山形大医学部の医学科生は、地域を支える医療人を目指し、日々臨床実習などに臨んでいる。

 外科系を志す渡辺大史さん(25)=5年=は山形市出身。同大が舟形町などで全国に先駆けて実践してきた、病気発症の遺伝的要素と生活習慣の関係を解明する「コホート研究」を例に挙げ、「(山形大が)先端的な研究をやりつつ、地域に密着した医療を提供している」と話す。愛着のある地元への強い思いに加え、地域住民に還元していく研究や医療の方向性に共感を抱きながら研さんを積んでいる。

 外科系や産婦人科系を志向する仙台市出身の野口美貢さん(21)=4年=は、同大が08年度に創設した「スチューデントドクター」制度を、志望した理由の一つに挙げる。同付属病院などで臨床実習を始める医学科4年生を対象に認定証を授与するもので、医師としての総合的な能力、医療に携わる責任や心構えを認識させるカリキュラムが組まれている。

 全国80の医学系大学で組織する全国医学部長病院長会議でも15年度、医学部共通の認定制度として採用された。17年度の学生代表として、山下英俊学部長から認定証を受けた野口さんは「(山形大は)臨床実習を大事にし、教育に力を入れている」と魅力を語り「患者に安心感を与えられるよう、人間性を兼ね備えた医師になりたい」と日々奮闘している。

 2020年3月には山形大医学部付属病院で重粒子線がん治療が始まる。東北、北海道で初、国内では6例目となる先進医療。同学部医学科5年の渡辺大史さんは「先端的な治療法が身近にあることは、医者としても恵まれている。この治療に参画する機会があれば、新たな治療法を学び継承していきたい」と語り、同4年の野口美貢さんは「山形大は地域医療というイメージがあったが、重粒子線治療の導入により幅広い医療が展開される」と期待感を口にする。

「スチューデントドクター」の認定証を授与される医学科生。実習や臨床を重視したカリキュラムに魅力を感じて入学する学生もいる=2015年10月、山形市・山形大医学部

 同病院の全診療科を挙げたゲノム(全遺伝情報)解析に基づくオーダーメード型治療が近い将来始まることも学生には大きな刺激だ。渡辺さんは地方にいても都市部との医療格差がない点を強調し、「山形の地で日本や世界の医療をリードしていく気概を持って取り組める」と話す。

 同大医学部は18年度入試の医学科の入学定員を17年度から5人減の120人としたが、県内高校の卒業生を対象にした「地域枠」は2人増の10人とすることを決めた。

 山下英俊学部長は地域枠の増員の狙いを「地域医療の確保の視点で増やした。医師の半数が県内に定着している」と説明する。医師の県内定着は、地域医療を支える人材を育てていく上で、極めて重要な課題だ。

 自治体の人口規模や地域事情に合わせて、地域医療の提供体制は徐々に変容していく。赤字経営の立て直しが課題とされる自治体病院は、採算と住民ニーズのはざまで揺れ、経営を維持していくか、撤退するかの判断を迫られる時が必ず訪れる。住民が安心して暮らせるための救急医療体制の構築を含め、向き合うべき課題は山積している。

 本県を含めた地方では人口流出が進み、高齢者の割合は高まるばかりだ。野口さんは「世界でも最先端の医療を実践して、山形大の名前を広めていくことが大切。先端医療を求めて学びに来る人がいれば、医療人として山形に残る人も増えていくと思う」と希望を込めて話す。

 医療という日進月歩の世界で、いかに最先端を追い求めながら住民の暮らしを支えていくか。

 「『おらだの大学病院』という気持ちや安心感を住民に持ってもらえるよう、努力を続けていくことが大事」。渡辺さんはそう語る。

 医療人として、住民が必要としている治療や医療サービスを常に追求していくことが、地域に大きな可能性をもたらすものと信じている。

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