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第3部・学生の古里回帰へ 首都圏大学との連携協定(5)

2018/3/31 09:15

 東北電化工業(山形市)に勤務する東海大体育学部出身の鹿野郁絵さん(23)=同市=は、昨年4月にUターン就職した。ちょうど1年が経過する。現在は作業現場で先輩社員のサポート業務をこなしており、生まれ育った地元での仕事にやりがいを感じている。

 就職活動中は進路を模索する日々だった。剣道の強豪校・左沢高から東海大に進んだ。大学ではスポーツ系の講義を多く受けていたが、就職先を具体的にはイメージできずにいた。「山形へ絶対に帰ろうという気持ちはない」状態だった。

 東海大は2015年、本県と学生のUターン、Iターン就職の促進に関する協定を締結した。以降、大学では本県企業に関する就職情報コーナーをキャンパス内に設置し、就職相談会などを開いている。進路を決めかねていた鹿野さんにとって、これら大学が提供する情報はUターン就職の決断に大きな影響を与えることになった。

「山形の役に立ちたい」とUターン就職を決めた鹿野郁絵さん=山形市

 東海大キャリアセンター内に設けられた本県の就職情報コーナー。足を運んだ鹿野郁絵さんは1枚のチラシを手にした。県内企業が集まり、都内で開かれるUターン就職説明会のお知らせだった。各社の人事担当者から直接話を聞く機会が得られた。

 「どの会社を選択しても、入社1年目の自分はゼロからのスタートになる」。そんな気持ちで各社のブースを回った。その中の一つだった東北電化工業の採用試験を受けることを決めたのは、「新人教育が充実している。地域に貢献できる業務内容で私自身も成長できる」と感じたからだった。

 インターネットでも企業や採用情報に接することができる。だが説明会で企業担当者と顔を合わせ、しっかりと話を聞いた経験は大きかったと振り返る。打ち込んできた剣道では多くの人と出会った。「お世話になった方々の役に立てることをしたい」。古里への思いも徐々に高まっていったという。

 鹿野さんが就職活動中に参加したイベントの一つに、東海大山形高(山形市)で開かれた就職説明会があった。東海大や東海大山形高出身の学生らを対象にした企画で、県内企業の担当者が会社概要、仕事内容などを紹介する催しだ。OBが勤めている会社もあり、学生らは各ブースを回って個別に相談することができる。

 東海大キャリア就職センター、東海大山形高が2015年に開始した試みだった。背景には、本県から東海大に進学した生徒のうち、就職で県内に戻ってくる割合は28%程度という現状があった。初回から携わっている東海大山形高の松浦達朗教頭は語る。「この割合を増やしたい。地元で育て、最終的に山形に戻って地域貢献できる人材を育てるのも高校の役割だから」

 付属高校の立場で言えば、高校の3年間、そして大学4年間の計7年間のスパンで子どもたちを育て、社会に送り出すことが重要と捉えている。そのためには実効性のある就職支援が求められるとし、他県の取り組みを参考にこの説明会を導入した。

 回数を重ねるうちに「山形県にはきらっと光る企業が多くあることに気付いた」などの声が寄せられる。役立っている実感が湧くという。「山形県の情報を知らない学生もいるのが実情。企業担当者とマンツーマンで話せる機会を設けることで、Uターン就職を支援していきたい」と松浦教頭。学生たちと企業との“出会い”の創出、工夫が今、学校側に求められている。

(「山形再興」取材班)

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