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第4部・地域おこし協力隊の思い (4)大江・野木桃子さん

2018/4/26 11:52
七軒地区の住民を訪ね、地元産材を使った弁当箱製作の打ち合わせをする野木桃子さん(右)=大江町

 森とともにある魅力的な暮らしや食、地域に息づく物語を吸収し、それらを組み合わせ、「なりわい」にすることで守り伝えていく。大江町地域おこし協力隊員の野木桃子さん(26)=福島県伊達市出身=は、こんな理想を掲げ、山村地域での新しい暮らし方を提案しようとしている。

 2015年6月の着任以来、同町七軒地区に住み、森と食をテーマにしたワークショップや期間限定の食堂開設、地域新聞の発行などで、土地の魅力を発信する活動を続けてきた。今年6月で、3年間の隊員任期が終わるが、2年目から思い始めた「この地域に住み続けたい」という気持ちは変わらない。

 でも、隊員としての収入がなくなる中で、やりたいことはたくさんあっても、“食いぶち”がなければ暮らしてはいけない。地区外で仕事をしながら地元住民と触れ合い、豊かな山の暮らしを今まで通りに実践するのは難しい。そこで、これまでの活動を通して野木さんが行き着いた答えはこうだ。「自分がやりたいことをいくつか組み合わせ、ちょっとずつ稼いでなりわいにする」

 大江町地域おこし協力隊の野木桃子さんは、栄養学を学ぶために山形大地域教育文化学部に進学した。卒業後は地元・福島に戻り「お年寄りの最後の一口」に関わる栄養士として特別養護老人ホームに就職。利用者に寄り添える仕事にやりがいを感じていた。一方で、お年寄りが本当に食べたい物を提供できているのかといった思いを強く抱えるようになった。「地域に入って食を見つめ直したい」。

 そんな時、出合ったのが大江町の七軒地区を舞台に自然に寄り添う暮らしを実践・発信するグループ「So―tennen(そうてんねん)」。活動に携わり、山の暮らしに興味を持ち始めたころ、町の地域おこし協力隊への応募を勧められた。活動テーマは「林業振興や食文化の発信、七軒地区の活性化など」。自分のやりたいことと重なった。

 とはいえ、任期終了後の保証が何もない中で、縁もゆかりもない土地への移住を女性が決断するのは簡単ではなかった。悩んでいた野木さんを突き動かしたのは「20代半ばの今しかない」という思いだった。

 面積の約8割を森林が占め、かつては林業で栄えた大江町。山の恵みをうまく生活に取り入れ、それらに感謝しながら豊かで丁寧に生活する文化や知恵があちこちに残っていた。多くの人に出会い、漬物やしみ餅作りなどさまざまな活動に交ぜてもらうたびに、地域の輝きが増していった。

 「お年寄りたちが受け継いできた山で暮らす知恵と技術、そして人生の物語を守り伝えることをなりわいにできないか」。それを試すように、メープルシロップや山ブドウといった森の素材を使って食事やおやつ作りなどを楽しむワークショップを開いた。森好きの女性による林業女子会を立ち上げ、山間部ならではの家庭料理を提供する季節限定食堂を集落のお母さんたちと開設。森・食を軸に住民を巻き込みながら地域の魅力を掘り起こし、発信してきた。

 手作り地域新聞「あどぼい日記」も毎月発行。間もなく30号を迎える。80歳以上のお年寄りたちの暮らしぶりだけでなく、受け継いできた知恵や地域行事などを紙面に残している。

 任期終了後は起業に向けた研修を積み、フリーランスの立場でイベントの企画や手伝い、食事の提供といった事業を組み合わせながら生計を立てていく予定だ。

 「ここには栄養学だけでは測れない、生きる力強さがある。お金ではない豊かさや人の優しさもある。自分の選択は間違いじゃなかった」。野木さんは協力隊としての約3年をこう振り返る。これからの暮らしが、七軒地区にちりばめられた物語をつむぐ第2幕。「人を呼ぶのは結局は人。自分も人を呼べるような楽しい暮らし方をしたい」と目を輝かせた。

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