山形再興

第7部・出生率高める 岡山・奈義町の取り組み(1)

2018年07月28日
岡山県北東部の山あいにある奈義町。豊かな自然に囲まれた町は県外からの移住者も多い
岡山県北東部の山あいにある奈義町。豊かな自然に囲まれた町は県外からの移住者も多い
 どこまでも田園が広がり、深緑の雄大な山々が連なる。本県と同じような風景を持つこの町は、近年、国内各地から行政視察が相次ぐなど脚光を浴びている。岡山県北東部に位置する奈義町。鳥取県に程近い人口約6千人の町が2014年、きめ細かな子育て支援策を実らせ、合計特殊出生率2.81という全国トップクラスの数値を記録したからだ。

 人口減少、少子化への対応はどの自治体も抱える大きな課題だ。奈義町も同様に、突き付けられている現実は厳しい。50年前は9千人近くだった人口は右肩下がりにあり、国立社会保障・人口問題研究所による推計では、2040年には4千人を切るというデータが示されている。

 子どもを産み育てられる環境の整備。奈義町がその重要性を強く認識し、大きく政策を転換したのは05年だった。当時、合計特殊出生率は1.41にとどまり、町の未来を不安視する住民が多かった。現実を受け止め、行政、町民が地域存続の危機感を共有し、本格的な子育て支援に乗り出した。

 岡山県奈義町は1955(昭和30)年、3村合併により誕生した。四季折々の自然に囲まれた町には陸上自衛隊日本原駐屯地と演習場がある。自衛隊との共存共栄を掲げているほか、コメや牛などの農畜産業が盛んだ。全国で市町村合併が進む中、2002年には合併の是非を問う住民投票を行い、約7割が反対という結果を踏まえ「単独町制」の道を歩むことを決めている。

 3村合併当時の人口は8925人。高度経済成長期(1955~70年)に都市部への人口流出が進み7千人ほどに減った一方、その後は陸上自衛隊日本原駐屯地の開設などに伴い増加し約8千人に持ち直した。しかし、バブル期(86~90年)には再び町を離れる人が増え、駐屯地の定員削減もあり人口減が続いた。

2012年に行った「子育て応援宣言」。妊娠出産期から就学期まで切れ目ない子育て支援策を展開し、子どもを産み育てやすい環境整備に注力する(町提供)
2012年に行った「子育て応援宣言」。妊娠出産期から就学期まで切れ目ない子育て支援策を展開し、子どもを産み育てやすい環境整備に注力する(町提供)
 そして05年。厳しい現実に直面した。出生数37人、合計特殊出生率1.41。「子どもの声が聞こえない」。そんな不安が町民の間で広がっていたという。このままの状態が続けば町はどうなるのか。働き盛りの若者たちが規模の大きい近隣自治体へと出て行く傾向にあった。笠木義孝町長は「福祉分野を優先していた。お金がかかる子育て世代への投資は考えていなかった」と振り返る。

 町は危機感を持ち、子どもを産み育てやすい環境をつくるには何が必要かを洗い出し、実行に移した。「若者定住支援」「就労支援」「独自の子育て支援策」を施策の柱に据え、それぞれ段階的に拡充を図った。不妊治療や出産祝い金交付事業を展開し、乳幼児がいる子育て中の親子が集える施設の整備、民間クリニックにおける病児らの一時預かり保育を実施。高校生までの医療費のうち、保険診療に関わる自己負担分の助成を始めた。妊娠出産期から乳幼児期、就学期まで「切れ目のないサポート態勢」を構築した。

 積み重ねてきた施策を周知し、子育て世代に心強さや安心感を持ってもらうため、12年、「子育て応援宣言」を行った。若い世代の住環境整備にも注力する町の姿勢は県外にも広く発信され、昨年、県外からの移住者は58人と前年の37人を大きく上回った。「奈義町の子育て支援施策に引かれた」と移住を決断した人もいるという。

 05年度の子育て支援関連予算は4千万円程度だったが、18年度は3倍を超える1億3850万円を確保した。14年に合計特殊出生率2.81を達成し、昨年も2.39を記録。さらなる施策の充実を視野に、町の担当者は強調する。「これをやったから2.81になった―というものもない。少子化対策に起爆剤はないということ。10年かけて地道に取り組んできた成果だと思っている」

     ◇ 

 少子化に悩む自治体が多い中、岡山県奈義町は子育て支援の“成功例”として注目を集める。年間企画「山形再興」第7部は、記者が現地に入って同町の取り組みを探り、識者の見解を踏まえながら本県に必要な施策について考える。

【メモ】合計特殊出生率 15~49歳の女性の年齢別出生率を合計した数値で、「1人の女性が生涯に産む子どもの数」を推定する指標。2017年の本県は1.45で、前年と比較し0.02ポイント減少した。全国平均の1.43を上回っているが、都道府県順位は前年に続き34位。地域別でみると、近年は三川町が高い数値で、16年は2.11だった。人口維持に必要なのは2.07とされ、吉村美栄子知事は20年度までに1.70にする目標を掲げている。
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