山形再興

第8部・増やせ交流人口(4) 高畠町「熱中小学校」(上)

2018年08月30日
熱中小学校の卒業式で笑顔を見せる1期生=高畠町
熱中小学校の卒業式で笑顔を見せる1期生=高畠町
 高畠町の旧時沢小を舞台にした「熱中小学校」は2015年10月、大人の学び、起業家育成の場として開校した。廃校舎を再び学校として活用するケースは全国的に珍しく、地方創生の先進事例として注目を集めてきた。今月19日には初の卒業式が行われ、半年単位の教育課程を計6期受講した1期生30人が晴れやかな“門出”を祝い合った。

 目を輝かせて入場した卒業生は、入学時に組み立てた自作の木製いすに腰掛けた。大久保昇内田洋行社長、伝田信行・元インテル社長、城戸淳二山形大大学院卓越研究教授ら、そうそうたる教諭陣が繰り広げてきた授業の様子がスライドで紹介され、卒業生は懐かしそうに3年間を振り返った。熱中小を運営する廃校再生プロジェクトNPO法人はじまりの学校の佐藤広志理事長(70)=エヌ・デーソフトウェア社長=がケヤキ製の卒業証書を一人一人に手渡すと、Vサインを見せる人の姿も。

 皆勤賞の早坂さよ子さん(56)=東根市長瀞、会社員=は「何にでも興味を持って聴講することで今まで知らなかった世界が見えてきた。友達もたくさんでき、異業種交流会みたいな雰囲気だった。今後も何らかの形で熱中小学校に関わっていきたい」と笑顔を見せた。

 熱中小の運営で中核を担うのは佐藤広志理事長と、元日本IBM常務で現在は空き室や古民家を活用して起業支援を行うオフィス・コロボックル(東京都)の堀田一芙(かずふ)代表(71)。2人の熱意を、地元の高畠町が国の地方創生交付金を活用しながら支えてきた。

 熱中小の授業は月2回(土曜日)で、60分の授業を1日2~3コマ行う。1期の授業料は60歳未満が1万円、60歳以上が2万円。堀田さんらが構築してきた教諭陣に支給されるのは原則として交通費と宿泊費のみで、各界のエキスパートが文字通り手弁当で授業を行っている。

 堀田さんは「熱中小学校の生徒は10~80代で、職業も幅広く知的好奇心の塊のような存在。世の中の縮図のような中で授業をするとその熱量に先生が感動し、一緒に楽しめる。こうしたやりがいがあるから、先生を引き受けてくれるんですよ」と解説する。

 地方創生交付金の後押しもあり、熱中小学校の姉妹校は全国に急速に広がった。9月には高知県越知町に、10月には鳥取県琴浦町にも開校予定で、北海道から九州まで全国に12校の輪が広がることになる。

 高畠校1期生の木野村英明さん(47)=北海道帯広市、弁護士=は熱中小の魅力に取りつかれ、昨年4月、北海道更別村に「十勝さらべつ熱中小学校」を開校、運営母体の理事長を務めている。「とんがった先生が多いのが面白い。自分も刺激を受けただけでは面白くないので、何かやらなければと熱中小学校を立ち上げた。さらべつ校では自主的な部活動が10以上も動きだしている」と話す。

 全国の熱中小への教諭派遣を調整しているのは高畠校の事務局。各校から希望する教諭リストを提出してもらった上で、過去の派遣実績と照らし合わせ、約200人に上る教諭の予定を確認しながら石黒悠起事務局長(38)らスタッフ4人が調整に当たっている。

 全国に広まった熱中小を裏方として支えているのも高畠町企画財政課だ。熱中小所在地の市町村が作成した地方創生推進交付金の申請内容を1本に取りまとめ、パッケージ化して国に提出する申請事務を担っている。熱中小の仲間が増えるたびに変更申請が必要となるが、八巻裕一課長補佐(48)は「各自治体の担当者とは連携会議の席で1度は顔を合わせているので、信頼関係はできている」とする。

 熱中小同士の交流も始まっており、自身の名札などを持参すれば姉妹校の授業を受けられる「熱中パスポート」の仕組みが構築された。高畠校の生徒有志は昨年5月、東京都八丈町に、先月には富山県高岡市に“修学旅行”に出掛け、交流を深めた。その一人で2期生の長谷川正さん(67)=高畠町夏茂、糠野目生涯学習館長=は「高岡市では寺院の中で授業を受け、歓待を受けた。熱中小学校の良さは先生も生徒も肩書を抜きにしてフランクに語り合えるところ」と話す。

 仕掛け人である堀田さんは「熱中小学校では、人と人が出会い、その人たちが触媒になって予想もしていなかった何かが始まっていくところに価値がある。これこそが今後の地方創生の在り方だ」と力説する。

 来年4月には米国シアトルに海外第1号となる熱中小の開校が決まった。日本人コミュニティーの強化と再編が目的で、堀田さんは「熱中小の在校生は『お金をためてシアトルに行こうよ』という話題で盛り上がっているし、先生にとっても海外で授業をするのはモチベーションの一つになる。海外は1年に1校、国内は1年に4校の開校を目指したい」と意気込む。高畠町から始まった地方創生のモデルは海を越え、世界に広がろうとしている。
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