山形再興

第10部・大学の力 トップに聞く(5) 慶応大先端生命科学研究所・冨田勝所長

2018年11月02日
エキサイティングな仕事をつくり出すことの重要性を強調する冨田勝慶大先端研所長
エキサイティングな仕事をつくり出すことの重要性を強調する冨田勝慶大先端研所長
 鶴岡市の慶応大先端生命科学研究所は「普通」を嫌い、「普通は0点」という気風に満ちている。誰もやらない挑戦に価値を見いだす刺激的な空間からは、独創的なバイオベンチャー企業が相次いで誕生し、世界が振り向く技術が生み出されている。「大学発地方創生」の先頭を走る先端研の冨田勝所長は、わくわくするような全く新しい産業をつくり出すことの重要性を強調した。

 ―先端研は大学を核とした地方創生の先駆けとして評価されている。

 「地域の振興や再生を図ろうとする場合、自分の地域の利益だけを考えては駄目だと思う。企業誘致のように、既にあるものを他の地域から持ってくるやり方は、日本全体から見ればプラスマイナスゼロ。結局はパイの奪い合いになるだけ。一からビジネスを立ち上げないと、日本のプラスにはならない。全く新しい産業を創造し、日本や世界に貢献して、その結果、本社がある地元が潤う。この順番で地方創生を捉えている。

 わが国は新興国にコスト競争で勝てない。ものすごく良いモノや技術、サービスを売らなければならない。高付加価値を生み出す第一歩は、人と違うことをすることだ。日本人みんなが、みんなと同じことをやっていたらこの国の未来はない。人と違うことをやれば、前例がないからリスクが伴う。だからやらないのだろう。でも、誰かがやらなければ社会の発展はない。私たちはそれを愚直にやっている」

特別研究生入学式・研究助手任用式に臨む高校生。「脱・優等生」の教育が世界に飛躍する研究者を生み出す=今年5月、鶴岡市先端研究産業支援センター
特別研究生入学式・研究助手任用式に臨む高校生。「脱・優等生」の教育が世界に飛躍する研究者を生み出す=今年5月、鶴岡市先端研究産業支援センター
 ―人工クモ糸の量産化技術を確立したスパイバーや、唾液からがんを検査する技術を開発したサリバテックなど、先端研発のバイオベンチャー企業からは、世界が注目する成果が出ている。

 「ベンチャー各社は、地球規模の問題に取り組んでいる。スパイバーは、石油製品に代わる素材の開発に取り組んでいる。その市場規模は20兆円という試算もある。地球規模の貢献が可能であり、70億人に価値を与えるかもしれない。これはエキサイティングだ。若者が東京に行ってしまう要因は、結局は仕事。山形にスパイバーのようなエキサイティングな仕事が100増えれば、確実に若者は100人増える。エキサイティングな仕事をいくつ増やすかが、若者の人口を増やす一丁目一番地だ」

 ―若者の県外流出が、多くの自治体に共通する課題になっている。

 「むしろ、県外どころか世界に出ていってほしい。キャリアを積み、社会的な影響力を持つような人材となり、その一部が山形に戻って地元でエキサイティングなビジネスをやってやろうということになれば、山形に新しい活力が生まれる」

 ―日本の教育の在り方についての考えは。

 「教科書の勉強のやり過ぎだと思う。最初から正解が分かっている教科書をひたすら勉強し、人より早く間違えずに答えを出すことにエネルギーを割いている。それは多くの生徒にとって苦痛であり、エキサイティングではないから疲弊する。そんな日本の教育は、戦後復興期に言われたことをきちんとできる人を大量生産し、高度成長の原動力となって大きな成功をもたらしたことは間違いない。時代が変わった今も、日本人はその成功体験から抜け出せないでいる。

 もちろん今もこれからも『言われたことをきちんとやる人』は必要で、日本の教育を全否定するつもりはない。ただ、一握りでいいから、人と違うことを考え、進んで実行する人間が必要。そういう人材を伸ばす教育になっていないし、支援する仕組みもほとんどない」

 ―先端研は、地元の高校生を特別研究生などとして受け入れ、自由に最先端の研究ができる環境とチャンスを提供している。

 「特別研究生の応募条件には『情熱を持って研究し、その成果をアピールすることによってAO入試で大学受験する気概と勇気を持っていること』という項目を設けている。つまり受験勉強は禁止。高校生という大切な時期に、自分が興味のあることに没頭し、人と違うことにチャレンジしてもらいたい。私は、そういう『脱・優等生』の子どもたちをしっかり応援する」

=おわり
(この企画は報道部・稲村裕介、佐藤裕樹、東京支社・伊藤英俊、酒田支社・伊藤哲哉、鶴岡支社・峯田益宏、新庄支社・斎藤敏広、寒河江支社・長岡伸明、米沢支社・松本昭弘、長井支社・石井秀明が担当しました)
山形再興-真の地方創生を目指して 記事一覧 →すべての記事(トップページ)
文字サイズ変更
  • 小
  • 中
  • 大

県内7市発行メールマガジン登録無料

ふるさとだより

毎週木、金曜日配信中!

ニュース特集

スポーツ

教育・子育て

おでかけ

暮らし情報

twitter発信中

山形新聞からお知らせ

  1. 【2019年8大事業】
     山形新聞、山形放送の2019年の8大事業が決まりました。詳しくは、こちらから
  2. 【やましん公式FB】
     山形新聞社は、インターネット交流サイト「フェイスブック(FB)」の公式ページを新設しました。
     公式ページでは山形新聞のニュースのほか、本社からのお知らせなどを中心に紹介します。
     アドレスは、こちらから
  3. 【やましんe聞で動画視聴】
     読者限定の電子版「やましんe聞」で動画を閲覧できる新サービスを始めました。詳しくは、こちらから。
  4. ◆中学、高校の各種スポーツ大会の記録を紹介。検索機能も備えています。アクセス方法はこちら
  5. ◆探したい記事がきっと見つかる、山形新聞記事データベース。他社DB横断検索が便利な日経テレコンジー・サーチファクティバ
  6. ◆県外でも今日の朝刊が朝一で読める「お届け電子版
  7. ◆ニュース速報、高校野球、モンテ情報… 身近な情報を携帯で確認「モバイルやましん
  8. ◆故郷の話題をメールでお届け、ふるさとメール会員募集(登録無料)
山形新聞から
販売から