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挑む、山形創生

第4部鍵握る中小企業(4) ものづくりの後継者たち

2016/5/3 13:20

 建物正面に掲げられた銀板に、小さく社名が描かれている。内部は古い研究室を思わせる構造だ。Zメカニズム技研(米沢市福田町1丁目)は吉沢匠社長(41)ら家族6人で経営する小さな会社だが、重工業の大手から引き合いがあるなど、独自の技術で知名度を上げている。

Zメカニズムのモデルを前に、話し合う(右から)吉沢慧さん、匠さん、穣さん=米沢市・Zメカニズム技研

■新技術に自信

 その技術は社名の一部にもなったZメカニズム。「究極」という意味のZは、ドイツ語の未来(Zukunft)の頭文字でもある。「『風の谷のナウシカ』に登場する飛行用装置をつくたい」「車のエンジンに使えれば」。この特異な技術を生かして未来を描く。

 特許技術のZメカニズムは画期的な駆動方式だ。自動車やコンプレッサーなどに使われているピストン・クランク機構は240年以上も使われているシステムだが、力のロス、摩擦熱や振動の発生などの課題がある。しかし、クランクの回転力を2方向に分離し、往復運動に変えるZメカニズム(XY分離クランク機構)は、そういった課題を解消できるという。

 同社をけん引するのは匠さんのほか、穣さん(39)、慧さん(33)の3兄弟。匠さんの専門分野は流体工学、穣さんはエンジンなどの機械設計、慧さんは電気設計とそれぞれ持ち味がある。現在は空気冷凍装置を開発中で実用化がもう目の前。圧縮空気だけでフロンも使わず、小型で発電もできる冷凍装置。「振動もなく、力のロスもないから」。匠さんは自信に満ちあふれた表情を見せる。

 地方創生の大きなテーマは東京一極集中を廃し、地方が人口減少の流れから脱却すること。そのためには「魅力ある仕事」を地方につくらなければならない。Zメカニズムのような特化した技術を進化させる企業がある一方で、優秀な人材を用い、発展させている企業もある。

「王様の焼肉くろぬま」を共同で営む(右から)黒沼望さん、小関淳さん、斎藤弘さん。それぞれの異なる経験を店舗運営に生かしている=山形市篭田3丁目

 若い世代や幼い子ども連れの家族でも入りやすい雰囲気と、味の確かな焼き肉を気軽に楽しめることで高いリピーター率を誇る「王様の焼肉くろぬま」。現在は中山町と山形、天童両市に計4店舗を構える。事業拡大に結び付けたのは、精肉店の3代目とその同級生たちの経験と戦略だ。

■経験積み重ね

 共同経営しているのは、1948(昭和23)年創業の黒沼畜産(同町)社長の黒沼望さん(38)と、黒沼さんとは日大山形高で同級生だった小関淳さん(39)と斎藤弘さん(38)。3人はいずれも高校卒業後に上京した。黒沼さんが家業を継ぐために帰郷して数年、黒沼畜産でもともと運営していた焼き肉店は売り上げが落ち込み、閉店寸前の状態になっていた。

 黒沼さんは以前から事業についての夢を語り合っていた小関さんと斎藤さんに声を掛け、2006年に中山店をスタート。肉質の良さだけでなく、居心地のいい店舗空間や接客をはじめとするサービスの質、値頃感などを重視し、徐々に人気を広げていった。

 経営ビジネスを学んだ黒沼さん、アパレルや飲食業で接客のノウハウを身に付けた小関さん、大手広告代理店で企画・営業に取り組んだ斎藤さん。それぞれの蓄積した知識と経験が現在の店舗運営に生かされている。当初の目標だった1人1店舗を実現した。

 斎藤さんは「東京の仕事は楽しかったが、自分の生まれた場所で商売ができて充実している」、小関さんは「都会にいた20代があったから、今の価値を見いだせている」と話す。「この3人だからこそ、順調に来ることができた」と口をそろえる3人。視点の置き方一つで、地方でもビジネスのチャンスを掘り起こせることを証明している。

(「挑む 山形創生」取材班)

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