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挑む、山形創生

第9部農林業の可能性(4) 変化する畜産業

2016/10/20 09:37
来月出産を控えた母牛の世話をする我妻一雄さん。「米沢ブランドを守り続けたい」と話す=米沢市李山

 水田のそばに民家と牛舎が並ぶ。米沢市李山の我妻一雄さん(69)は、父親の代から米沢牛の古里を守る繁殖農家の一人。いま畜産業界は牛の“少子化”で子牛価格が高騰し、肥育農家を悩ませている。「1頭40万~50万円が相場だったが、いまは70万~80万円は当たり前。血統が良ければ100万円を超える」と我妻さんは母牛をなでた。

■“少子”で高騰

 本県などで昔から続く繁殖農家は、我妻さんのように水稲栽培をしながら母牛数頭を飼う複合経営が多い。近所の農家と共同で牛舎3棟を運営していたこともあるが、高齢化と後継者不足で我妻さん以外は相次ぎ離農した。牛の世話は苦労が多く、小規模な繁殖農家は近年減りつつある。こうした状況が“少子化”を招き、子牛価格高騰につながる要因の一つとなっている。

 いまは自宅脇の牛舎で母牛4頭を飼う。価格高騰で繁殖農家は恩恵を受けることもあるが、ブランド牛の肉質を維持するには繁殖農家も出荷前からいい餌を与えなければならない。子牛を出荷するには受胎、出産を含め2年を要する。小規模な繁殖農家にとって、子牛価格高騰によるメリットはそれほど大きくないという。

■ブランド守る

 「繁殖だけで生計を立てるとなると、何十頭もの規模が必要で、昔ながらの家族経営には限界がある。それでも米沢生まれの米沢牛ブランドを支えていきたい」と我妻さんは力を込める。

 肉牛のブランドは出生地ではなく、一定程度の肥育期間をどこで過ごしたかで決まり、県外で生まれた牛でも、米沢牛や山形牛として出荷される。沖縄県や九州地方には大規模な繁殖農家が多く、本県はこうした産地から子牛を買い、立派なブランド牛に育てる肥育県だ。

 だが子牛価格の高騰が変化をもたらし始めている。子牛を自給、肥育、出荷する「山形生まれ、山形育ち」の肉牛生産の取り組みだ。県統一銘柄「総称山形牛」の50%に当たる、肥育牛約4千頭を出荷する尾花沢市。本年度、農家や自治体、農業団体などで市畜産クラスター協議会を立ち上げた。国庫補助事業を活用して5年後までに市全体で繁殖雌牛を増やし、子牛の自給率を6%から20%に引き上げる計画だ。

 同市鶴巻田を拠点にするベルファーム(高橋昭代表)では現在30頭の繁殖牛を、5年後までに100頭まで増やすという。一方、同市名木沢のスカイファームおざき(尾崎勝社長)は肥育専門だったが、繁殖牛を導入し、5年後までに600頭に増やす予定だ。専務の尾崎裕考(やすゆき)さん(46)は「景観や臭いに配慮した農場を造って事業を展開し、地域の人と協力して畜産業を盛り上げたい」と語る。

■「耕畜連携」も

 スカイファームおざきは今後、市内に土地約9ヘクタールを求め、衛生管理を向上させるための認証基準である農場HACCP(ハサップ)に対応した24時間体制の生産拠点を整備する計画。将来的には年間で出荷する1200頭分の牛全てを「山形生まれ山形育ち」にすることが目標だ。

 水稲農家に飼料を供給してもらい、たい肥を還元する「耕畜連携」にも意欲を見せる。「耕畜連携は減反に寄与できる。地元の米農家とタイアップした繁殖牛の育成に取り組みたい」と尾崎専務。同市の一大産業である畜産をバックボーンに、コメと肉牛の生産者が手を取り合う新しい農業の姿を思い描いている。

(「挑む 山形創生」取材班)

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