社説

日米貿易交渉 着地点が展望できない

 日米貿易交渉の初協議は対象範囲を確定できずに終了した。土台となる部分で合意できなかったことは、厳しい交渉を予感させる。当面は先行して取り組む物品関税で実務協議が進むかもしれないが、物品関税に絞り込みたい日本と、自動車輸出の数量規制や通貨安誘導を禁じる「為替条項」などを視野に入れる米国の溝が埋まらなければ、日米間の貿易や経済活動は不安定な状態が続く。

 角突き合わせたままではらちが明かないので、双方がどこかで妥協したり譲ったりする局面が来るだろう。しかし相手は「米国第一主義」を掲げ、中国を相手に報復関税合戦を仕掛けているトランプ大統領だ。安倍晋三首相との個人的関係は良好とされているが、2020年に大統領選を控え、対日貿易赤字削減の目標は譲れないだろう。

 日本側代表の茂木敏充経済再生担当相は環太平洋連携協定(TPP)をまとめた実績があり、通商交渉の勘所を理解する適任者だが、現状では着地点は展望できず、旗色がいいとは言えない。

 今後の交渉で、仮に自動車輸出の数量規制や「為替条項」などが何らかの形で盛り込まれれば、日本は産業構造の変容を強いられる可能性もある。さらに、TPPを主導し「自由貿易の旗手」と自任する看板が色あせ、TPP参加国からの信頼も傷つくことにつながる。

 日本の通商政策は世界貿易機関(WTO)ルールに基づく多国間協議が基本だが、対米交渉については昨年、米国が強く要請した2国間交渉を受け入れた。悔やまれる選択だったと言わざるを得ない。交渉では自由で公正・公平な内実を伴う貿易協定にこだわるべきだ。

 貿易交渉は、今月末に開かれる日米首脳会談でも取り上げられることになった。首脳会談の前に、茂木氏と米側代表であるライトハイザー米通商代表が再び協議するという。

 農産物の対日輸出拡大などで少しでも早く成果を確保したい米国の意向が指摘されているが、日本は焦ることはない。相手のペースに乗らずに、投資ルールなども含めた包括的な交渉に拡大する事態を回避するために、物品関税などの手持ちカードを有効に活用する方法を検討することが必要だろう。

 TPPと欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の発効で、TPP参加国とEUは牛肉などの関税が下がり、対日輸出が増えている。この影響で米国産品の日本市場でのシェアが落ち始めている。この点では米国側に焦りがあるはずだ。この状況を戦略的に利用したい。

 こうした実務的な手法を駆使する一方で、併せて正面から経済構造の見直しも取り上げたい。日本は議長を務める6月の20カ国・地域(G20)首脳会合で、経常収支の不均衡を主要議題にする方針だ。貿易に金融などのサービスも加えた経常収支を軸に、貿易赤字の問題を捉え直そうという試みだ。

 米国の経常赤字は貯蓄率が低く消費が過剰であることが原因で、貿易相手国からの輸入を抑えても赤字削減の効果は望めない。こうした構造問題に各国で取り組むことを促す考えだ。少し回り道になるが、長い目で見れば効果があろう。

(2019/04/20付)
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