社説

英下院、EU離脱案否決 混乱回避を最優先せよ

 欧州連合(EU)からの離脱に対する考え方は、党派や勢力によって異なる。だがそれぞれの思惑が、政府方針の否決という方向では一致してしまう。このまま迷走していたら「合意なき離脱」という最悪の結末を招きかねないことは分かっているのに。今の英国に必要なのは目先の党利党略ではなく、迫り来る悪夢に対処する現実的判断だろう。

 英政府がEUと合意した離脱協定案が英下院で否決された。協定がないまま3月末に離脱することになれば、大きな混乱が生じる。このような事態を避けるため、英政府と議会は冷静に対処しなければならない。

 下院の採決は賛成202票、反対432票の圧倒的大差となった。「合意案は英国がEUの規則に将来も縛られ続ける余地を残す」と反発する保守党の反EU強硬派と、「合意案ではEUの経済枠組みに残れない」と懸念する親EUの野党が共に反対する結果となり、歴史的敗北につながった。

 今後の方針に関して英政府は17日、新しい方針に基づく代替案を下院で29日に採決する考えを示した。その前提として離脱協定案をEUと再交渉するのか、それとも離脱期限の延期を求めるのか、さまざまなシナリオが想定される。

 たとえ英政府がEUに再交渉を求めたとしても事態を打開できる保証はない。EUは合意案を修正する本格的な再交渉を拒否しているからだ。それに、再交渉でEUから部分的な譲歩を引き出すことができたとしても、下院の反対派の支持を取り付けられるかどうかは未知数だ。

 3月29日の離脱期限まで残り時間が少ないことが、困難を倍加している。そうであればEUに期限の延期を要請するのが現実的だろう。EU側は、離脱期限を2020年まで大幅に延期する可能性について検討し始めたと、英紙タイムズが報じている。

 合意なき離脱の弊害は、市民生活や経済活動に大きな混乱をもたらすことだ。現状はEU内で人やモノ、サービスなどの自由な移動が認められているのとは対照的に国境管理が厳格化され、人の行き来の自由が失われる可能性がある。さらに英EU間の貿易に関税がかかるようになるほか、物流がストップしたり遅れたりして食料品、医薬品など生活に必要な物品が英国に十分入ってこない事態が想定される。

 英国に進出している日本企業の中には既に混乱を避ける対応を考えている例もある。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、英国に進出している日系企業は17年10月時点で869社。このうち事務機器大手リコーはコピー機などを離脱前、欧州向け製品の倉庫があるオランダから英国に多めに輸出しておく方針だ。ホンダは英南部の工場で4月に計6日間、自動車生産の予備日を設ける。離脱に伴って国境をまたぐ部品の運搬に支障が出た場合、この6日間を生産の遅れを取り戻すのに使う。

 このように、合意なき離脱となれば影響が各方面に及ぶのは必至だ。メイ首相はあらゆる方策を検討し、問題解決を図ってほしい。議会も党利党略を優先させず、歩み寄りの道を探るべきだ。

(2019/01/18付)
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