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千代寿虎屋社長
大沼寿洋氏
大沼寿洋氏
【インタビュー】
 -業界の現状を踏まえ、自社の取り組みは。

 「清酒の消費量は1973(昭和48)年ごろをピークに減り続けており厳しい状況にある。一方、一昨年12月に県産の清酒が国税庁の地理的表示(GI)制度で「山形」として指定されたほか、今年5月には世界最大級のワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」の日本酒部門審査会が山形市で開催されるなど、本県酒造業界への注目度は上がっている。食生活や消費志向の変化に対応するため、量から質への転換が中小の酒蔵に求められている。当社も発泡酒や新しい酒米・酵母を使った日本酒など、付加価値型の商品開発に取り組んでおり、今後も永続的に存続していけるよう常に新しいことに挑戦していく。また、県産米だけを使った地酒造りにこだわっており、農家と直接つながっているのも強みだ。米作りから酒ができるまでの背景や思いなど、ストーリーごと売り込んでいきたい」

 -求める人材と育成方法は。

 「社員も世代交代の時期を迎え、若い人を入れて感覚を変えていく必要性を感じている。家族のような雰囲気の職場の中で、製造心得である『蔵内融和』を目指すには、知識や経験よりもまずは何でも吸収する素直さとコミュニケーション力が求められる。また、社員には製造から瓶詰め、販売まですべてを経験してほしいとお願いしている。さまざまな現場に関わることで知識だけではないストーリーを知り、思いや苦労も含めた形で商品を伝えていくことが大切だ。昨今は女性の杜氏(とうじ)も珍しくない。営業や製造の現場にも女性の感性を取り入れ、大いに生かしていきたい」

 -仕事上、最も影響を受けた人物とその教えは。

 「当社の製造理念にもなっている『よい食品の4条件・4原則』の提唱者である食品コンサルタント・故磯部晶策氏の複眼思考という考え方を大事にしている。さまざまな声に耳を傾け、自分で研究し、考え、判断することの重要性を説いたものだが、それに基づき酒蔵の存在価値は何かと考えたときに行き着いたのが全量県産米を使った酒造りだ。地元の人から“地元の米を使ったおらが酒”と思ってもらうことが当社の存在価値であり、その思いをぶれることなく形にしていきたい」

 ★大沼寿洋氏(おおぬま・としひろ) 成蹊大工学部卒。米カリフォルニア大デービス校や、酒類総合研究所での研修を経て、1998年に千代寿虎屋に入社した。99年に専務、2012年から代表取締役社長。県ワイン酒造組合理事長も務める。寒河江市出身。46歳。

 ★千代寿虎屋 1922(大正11)年、虎屋第三酒造場として創業。40(昭和15)年に虎屋より分離独立した。代表銘柄は「千代寿」。試験醸造を経て78(昭和53)年から本格的にワイン製造も手掛けている。寒河江市内に本社・酒蔵と、西川町に月山トラヤワイナリー虎屋西川工場を持つ。資本金1200万円。従業員数は11人。本社所在地は寒河江市南町2の1の16。

【私と新聞】経済、政治行政の動き知る
 社長に就いて7年目。時代の変化に応じた商品開発や経営革新などに日々注力している大沼寿洋社長にとって、新聞は欠かせない情報ツールだという。毎朝、山形新聞の1面から順に目を通すことから一日が始まる。特に、経済面と政治行政関係の2面は県内の動きを知る上で入念に読むといい「身近な人の話題や、他社の新製品などの記事は、その日の会話のきっかけになるのでとても役立つ」と話す。

 県産日本酒の話題や、各種品評会での活躍がきめ細かく取り上げられていることはありがたいとし「業界全体の活性化につながっている」。

 社説や提言、解説記事などを読むのも楽しみという大沼社長。「その道のプロによる専門的な見解や視点は参考になる。自分の素養を高めるためにも大いに活用していきたい」と語った。

【週刊経済ワード】日銀の金融政策
 日銀は2%の物価上昇目標の達成を目指し、大量の国債を買って市場にお金を供給する大規模な金融緩和を2013年4月に始めた。16年には、民間銀行から受け入れる当座預金の一部に手数料を課す「マイナス金利政策」を導入し、操作目標をお金の量から金利に転換した。今年7月の金融政策決定会合では緩和の長期化に伴う副作用を軽減するために政策を修正。長期金利の一定幅の上昇を容認し、上場投資信託(ETF)の購入では種類別の配分変更も決めた。
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