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杵屋本店社長
菅野高志氏
菅野高志氏
【インタビュー】
 -菓子業界の現状は。

 「人口減少社会にあって全体的に動きが鈍いと感じる。製菓業界は約8割が小規模事業者。多くは後継者不足の問題を抱えており、厳しさは認識している。専門店のわれわれにとり、品ぞろえを充実させたコンビニやスーパーが菓子販売のチャンネルを増やしていることはある意味、競合と言える。だからこそ、消費者が贈答や手土産用の菓子、そして鮮度感ある菓子を買える専門店は、コンビニやスーパーと顧客をすみ分けるための戦略が必要だ」

 -それを踏まえた自社の取り組みは。

 「豊富なラインアップでニーズに応えることはもちろん、地元に根差す企業として、本県農産物の地産地消を意識して加工した安全安心な商品や、自社製餡(あん)などの専門的技術を提案することが大切な役目。令和への改元を記念し、新元号の焼き印が入ったどら焼きを12日まで販売する。今年9~11月に日本航空のロンドン、パリ、米国主要都市への国際線ファーストクラスの機内食デザートに『山形旬香菓(しゅんこうか)ラ・フランス』と『最上小石』の採用が決まった。創業から貫く『ごまかしのない菓子作り』の基本姿勢は変わらない」

 -会社が求める人材と育成方法は。

 「本年度は短大卒の女性と洋菓子製造経験者の男性を採用した。3カ月間で全部門を回って学んでもらっている。それが多方面で能力を発揮することにつながれば。クリスマスの繁忙期は和菓子職人がケーキの生クリームを練ることだってあり、一つのことに限らず、何でも仕事ができる社員は力になる。基本に忠実で柔軟な発想を持つ人材に育てたいため、家の往復一つ取っても『回り道をしたり、違う道を通ったりして視野を広げよう』と指導している」

 -仕事上で影響を受けた人物は。

 「出版社『商業界』主幹で、2013年に亡くなった経営評論家の倉本初夫さんを挙げる。商業界のゼミナールには父の俊夫が通っており、私も入社後から勉強させてもらった。『損得より先に善悪を考えよう』『お客に有利な商いを毎日続けよ』など、幸せな商人になるための10の教えは、杵屋本店の企業理念に通じている」

 ★菅野高志氏(かんの・たかし) 日大山形高、専修大経営学部卒。京都市内の和菓子の老舗を経て1985(昭和60)年、杵屋本店に入社。2001年8月、10代目社長に就いた。県洋菓子協会長、日本洋菓子協会連合会常務理事も務める。南陽市出身。62歳。

 ★杵屋本店 1811(文化8)年1月、現在の南陽市宮内で創業し、県内に16店舗を構える。80(明治13)年、自家製餡(あん)で作る「練羊羹(ねりようかん)」を発売した。代表商品はほかに「リップルパイ」、本県産フルーツを使ったゼリーの「山形旬香菓(しゅんこうか)」など。資本金2550万円、社員数91人(パート従業員含む)。本社所在地は上山市弁天2の3の12。

【私と新聞】「老舗」記事、誇りと励みに
 記事の多くはインターネットで見るという菅野高志社長。山形新聞の紙面は会社で手に取って読む。「経済面に目を通せば、親交がある県内企業の社長の顔まで浮かんでくる」と話す。上山市教育委員を務める関係から地域面も丁寧に読み、「今後も地域の情報は、きめ細かく伝えてほしい」と希望する。

 杵屋本店を紹介した2012年4月16日付本紙「これぞ老舗~やまがたに息づく」は、最も印象が深い記事だ。「創業200年を超す会社を詳しく取り上げてもらい、社員はもとより支える家族の誇りと励みになった」と喜ぶ。

 目下の関心は、学生時代に体を鍛えたバスケットボールの記事。Bリーグの華やかさや、44年ぶりの五輪出場を決めた日本男子チームの活躍は「われわれが競技していた頃に比べると、夢のまた夢」と目を細め、「来年の東京五輪本番がとにかく楽しみだ」と語る。

【週刊経済ワード】顔認識技術
 画像から個人の顔の特徴を分析し、データベース上の既存の顔情報と照合して特定する技術。深層学習といった人工知能(AI)技術の向上に加え、利用できる顔のデジタル画像が蓄積したことで近年、飛躍的に進化した。世界で開発競争が激化しており、中国ではセンスタイムなどの新興企業が台頭。米国のアマゾン・ウェブ・サービスは格安な料金体系で提供している。
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