2024年4月16日(火)
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東北・新潟8新聞社共同企画

東北・新潟みらい会議~あしたをつくる、地域の新たな可能性~
山形新聞社、東奥日報社、岩手日報社、秋田魁新報社、河北新報社、福島民報社、福島民友新聞社、新潟日報社
秋田県
地元銀行が地域商社設立[秋田市]
台湾の百貨店で試みた秋田県鹿角市産リンゴの販売。品質に対する評価が高かった=2021年12月(詩の国秋田提供)
詩の国秋田の社員と伊藤社長(中央)=2022年1月、秋田市

 秋田市の地域商社「詩(し)の国(くに)秋田」(伊藤晋宏社長)が、県産の農産物や加工品の販路拡大に力を入れている。持続可能な地域を目指す動きを経済面から後押ししようと、昨年春に秋田銀行(秋田市)が設立。人口減少が進む中、県産品の海外輸出にも取り組み、新たなマーケットの開拓に挑んでいる。金融機関の情報やネットワークを生かしてヒットする可能性を秘めた商品を掘り起こし、大消費地での売り込みにつなげる展望を抱く。

 年の瀬が迫った昨年12月下旬。台湾・台北市の百貨店の青果物コーナーに秋田県鹿角市産のリンゴが並んだ。品種は県オリジナルの「秋田紅あかり」。詩の国秋田が試験的に600キロを販売した。

 クリスマスや年末年始に合わせた贈答用の需要を見込んで企画。売り場では日本産と分かるよう、あえて日本語のポスターを掲示した。価格は1個千円前後。伊藤社長(43)は「輸出の経費がかかるため、価格が割高になるのが課題だが、品質に関しては高い評価を得られた。海外での販売ルートを構築していきたい」と次の展開に目を向ける。

 秋田銀行が商社を設立したのは、県内事業所への関わりを強化するためだ。2016年には初の海外拠点として台北市に駐在員事務所を開設し、県内企業の進出をサポート。台湾を重要なマーケットに位置付け、銀行として事業所と国内外のバイヤーをつなぐ仲介事業を続けている。

 ただ銀行法上、仲介事業で手掛けられるのは事業所同士の紹介までとなっている。これに対し、商社は県産品を自ら仕入れて販売することができ、より踏み込んだ形で事業所の販路開拓を支援していけるという。

 駐在員事務所の初代所長で、現在は詩の国秋田常務兼営業部長を務める榎和浩さん(56)は「台湾の商習慣を理解した上で最適な提案をしていくのが自分の役目。台湾では日本の商品に対する信頼度が高い」と話す。

 新型コロナウイルス禍で日本国内での土産物販売などが苦戦を強いられていることを受け、詩の国秋田は昨年秋に電子商取引(EC)サイトの運用を開始。今後は農業県としての歴史やストーリー性を感じられる商品を発掘し、売り込んでいく計画だ。

 伊藤社長は秋田県美郷町の出身。昨年、秋田銀行から出向し、詩の国秋田の社長に就任した。県外の大学を卒業後、地元銀行に入行したのは、古里の発展のために何らかの形で力になりたいとの思いがあったからだという。

 「秋田には、知名度は低くてもいい商品がたくさんある。パッケージを変更するなど売れるための工夫を積み重ねていく。事業者が潤い、地域にお金が回る好循環をつくっていきたい」と意気込む。
(秋田魁新報社政治経済部・相沢一浩)

インタビュー
詩の国秋田社長・伊藤晋宏さん
「地域産品の海外輸出に力を入れたい」と語る伊藤社長
 農産物や加工品の販路拡大に取り組む伊藤社長に、海外市場を目指す意義や今後の展望を聞いた。

 ―海外展開に力を入れ始めている。

 「国内では人口が減少傾向にあり、既存のマーケットだけでは商品の売り先は先細っていく。いい商品を作る生産者や輸出に関わる事業者をつなぐ『ハブ』の役割を詩の国秋田が果たし、海外での販売強化につなげていきたい。将来的には輸出量を増やし、輸送コストの低減などにも取り組んでいく考えだ」

 ―銀行が立ち上げた地域商社の強みは何か。

 「長い歴史を積み重ねてきた銀行には、信用力があると感じる。事業所を回って商品発掘を試みる際も、われわれの話をしっかりと聞いてもらえる。銀行が信頼されているからだと思う。秋田県内では人口減少や少子高齢化の影響で人材難に悩む会社も出てきた。詩の国秋田がこうした会社の営業部門を担い、会社側には売れる商品の生産に注力してもらう。そんな仕組みを築くことも可能ではないか」

 ―秋田県内の事業所が販路を広げる上での課題は。

 「新たな市場を開拓しようとする会社が少ないように感じる。秋田銀行もバイヤーと事業所のマッチング商談会を開いているが、参加業者が固定化しつつある。自社の商品PRに関しても、どのような人にいつ、どんな状況で食べてもらいたいのかが伝わらないケースがある。売れる商品を作るための意識改革が求められる」

 ―社長に就く際の心境は。

 「想定外だったので打診された時はびっくりしたが、やるしかないという思いでここまでやってきた。経済が循環してこそ、地域の持続性は高まっていく。県内に住む人たちが、『秋田っていい所なんだ』と胸を張って言えるような環境をつくっていきたい」

 ―今後の展望は。

 「昨年の上半期は新型コロナウイルスの影響もあり、秋田県外への営業活動はなかなかできなかったが、県内事業所を回り、魅力や可能性のあるさまざまな商品に接することができた。コロナ下でもあり、健康関連の商品需要は今後、伸びていくと思う。これまで培ったネットワークを生かし、実際に商品を仕入れ、売り出していきたい」
意見・感想・メッセージを募集
 この共同企画に関する意見・感想、登場した人たちへのメッセージを募集します。
 宛先は〒990-8550 山形市旅篭町2の5の12、山形メディアタワー 山形新聞社編集局報道部「東北・新潟みらい会議~あしたをつくる、地域の新たな可能性~」係。ファクスは023(641)3106。メールはdokusha@yamagata-np.jp
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