交流人口(3) 交通網、都市形成の要因~山形にフル規格新幹線を|山形新聞

山形にフル規格新幹線を

交流人口(3) 交通網、都市形成の要因

2017/8/3 17:05

 地域経済の維持と振興につながる交流人口の拡大と定住促進を図るためには、大量輸送を可能とする公共交通手段の確保が重要な課題となる。航空路線や高速交通網の整備が進む中で、より多くの人々を迅速に、そして安定的に輸送できるフル規格新幹線は地方創生の大きなツールとなる。

 日本の人口分布の推移を追うと、交通網整備状況が都市圏形成の要因となっている状況がうかがえる。北前船が北海道や東北、北陸、関東を結ぶ物流ネットワークを担った明治時代、日本の人口上位15都市は金沢、徳島など日本海側や港湾部に分布していた。しかし、高度経済成長を経て鉄道網の整備と新幹線の導入が進み、発展都市はフル規格新幹線の沿線ルートと重なる太平洋側に集中する。

 総務省によると、住民基本台帳に基づく2016年の人口移動報告では東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の転入者が転出者を11万7868人上回る転入超過となった。転入超過は21年連続。本県を含む40道府県が転出超過となっており、東京一極集中は歯止めが掛かっていない。

 人口の偏在を解消し、国土の均衡ある発展を実現するためにも新幹線網の整備は欠かせない。

 鉄道網の整備が都市圏形成要因となっていることを示すデータがある。交通計画を専門とする大阪産業大の波床(はとこ)正敏教授の研究によると、1876(明治9)年時点の人口が多い上位15都市は函館、仙台、東京、横浜、富山、金沢、名古屋、京都、神戸、大阪、和歌山、徳島、広島、熊本、鹿児島。2012年時点ではこのうち函館、富山、金沢、和歌山、徳島、鹿児島がランク外に転落した。

 一方、新たに人口50万人以上の政令指定都市となったのが千葉、相模原、川崎、静岡、浜松、新潟、堺、岡山、北九州、福岡、札幌。「衰退」と「発展」の明暗を分けた要因は何か。

 波床教授は▽工業整備特別地域▽高速道路整備▽空港整備―などの観点から都市の発展状況を比較。昭和30年代から形成が進んだ工業整備特別地域などは上位15都市とは完全には重ならず「当初目指した全国の均衡ある発展は工業都市整備では解決できなかった」と指摘する。高速道路や空港の整備も15都市とは一致せず、必ずしも大都市の形成に結び付いているとは言えない状況だ。

 上位15都市と政令指定都市には、札幌を除いて新幹線ネットワークが構築された都市だという共通点があり、相関関係があることが見て取れる。近代日本の大都市形成には新幹線が大きな役割を果たしてきたと言っても過言ではない。

 太平洋側に人口上位15都市や政令指定都市が集中し、日本の人口が偏在している点にも着目したい。人口が少ない自治体ほど人口流出が進む傾向にある中で、人口減少は働き手の中心となる15~64歳の「生産年齢人口」の減にもつながる。今年1月1日現在、本県の生産年齢人口の割合は56.81%。全国で8番目に低いという現状がある。地域の活力を持続させるためにはこうした「負のスパイラル」を断ち切る必要があり、フル規格新幹線は定住人口拡大の起爆剤となり得る。

 ただ、新幹線が通りさえすれば大都市形成に結び付くと結論づけるのは早計だ。波床教授は「新幹線は全ての課題を解決するわけではない。人口を増やすには、新幹線と組み合わせた施策を実行して初めて効果を発揮する」と強調する。地域の歴史や文化、風土、県民性といった要素を踏まえ、いかに山形ならではの活性化策を創生していくのか。フル規格新幹線をめぐる議論は、まさに地方創生の在り方そのものを問う議論に直結している。

(「山形にフル規格新幹線を」取材班)

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