山形新幹線の運行は気象に左右されてきた。大雪や豪雨のたびに運休・遅延が発生し、野生動物との衝突でストップする。安定性、安全性は課題だ。運休・遅延全体の約4割に上る福島県境部の抜本的な防災対策を目的にJR東日本は調査を進め、トンネル新設の概算事業費を1500億円と試算した。事業化の判断は今後になるが、トンネル化が実現すれば県境部の運休・遅延はほぼゼロになる。県内外の熱意が事業化を後押しする。
峠の克服は、山形県発展の歴史と重なる。奥羽、吾妻山系に囲まれた福島県境部は、交流や物流を阻害してきた。初代県令三島通庸(みちつね)が開削した「栗子隧道(ずいどう)」は本県の近代化につながり、山形新幹線開業は高速交通時代の扉を開いた。福島大笹生―米沢北間が開通した東北中央自動車道は、人口減少に悩む本県の将来設計に光を差し込んでいる。
山形新幹線も県境部が最大の弱点となっている。JR東日本は、抜本的な防災対策に関し、2015年度から調査を実施した。山岳区間の庭坂(福島市)―米沢間を対象に2年間、地質調査や測量などを行い、現在の山形新幹線を前提とした事業費を1500億円と試算。フル規格新幹線仕様に掘削面を広げれば120億円増額と見積もった。
工期は着工から約15年間。トンネル化は自然災害による運休・遅延の大幅減と山形新幹線の安定性の飛躍的な向上、所要時間10分強の短縮につながる。
全国の地方自治体は、人口減少に直面している。本県も毎年1万人前後が減少し、10年後には100万人を割り込むことが予想される。観光客が県内で使うお金を増やさなければ、現在の地域経済を維持することは難しい。大量輸送を可能にする高速鉄道網として、フル規格の奥羽、羽越両新幹線は中長期的な運動だが、山形新幹線の信頼性向上は直面する喫緊の課題だ。
JR東日本の情報を基に県総合交通政策課が独自集計した運休・遅延状況によると、2016年度の県内の運休・遅延は計1428本で、山形新幹線は196本と全体の13.7%を占める。原因別では豪雨が57本、大雪が58本、強風が12本など。普通列車を含む奥羽本線全体で約7万5千人の乗客に影響が出た。
新幹線と在来線が相互乗り入れする日本初の整備手法「新幹線直行特急」の山形新幹線は、その特性による運休・遅延原因がある。それは野生動物との衝突だ。14~16年度の3年間で、カモシカやクマ、イノシシと衝突し、運休・遅延になった件数は計15件。衝突場所は福島県境部が約半数を占める。
山形新幹線の年間走行距離160万キロと、東北、上越、北陸の3新幹線の計4684万キロを基に、100万キロ当たりの「輸送障害件数」(15年度)で比較すると、山形新幹線は15件、3新幹線は0・45件で、山形新幹線はフル規格新幹線の33倍に上る。
フル規格新幹線の早期実現は、高速鉄道の安定性を飛躍的に高め、通勤・通学圏が広がり、観光客が抱く時間的距離の壁を取り除く。本県のものづくりや食文化などを生かしたビジネス機会の創出にもつながる。奥羽、羽越両新幹線は40年以上も基本計画のままで、実現に1歩近づく整備計画への格上げが不可欠だ。JR東日本は今回の調査結果で「フル規格仕様に掘削面を広げれば、さらに120億円」との試算も行っており、トンネル新設は将来のフル規格を展望する上で、突破口になり得る。
山形新幹線を利用する際、大荒れの気象情報が流れると「動いているのか、止まっているのか」が気掛かりになる。JR東京駅で知る「運休」にため息を漏らした利用者もいるだろう。運休リスクの少ない仙台経由の東北新幹線を選択する人もいるのではないか。県境部のトンネル化は運休・遅延とともに、そうした不安要素も解消する。
(「山形にフル規格新幹線を」取材班)
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