やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第9部・農と食と[4] 庄内の挑戦(上)

2014/10/20 08:35
スケッチブックを持ち生産者を補佐するようにだだちゃ豆の解説を行う鶴岡ふうどガイド=鶴岡市

 「茶色いうぶ毛、香りの良さを体感してください」。旬を迎えた鶴岡市のだだちゃ豆畑でツアー客に呼び掛けるのは松本典子さん(31)。さや付きを手にした玉谷貴子さん(37)は「根っこの土もほら触ってみて」と笑顔で駆け寄る。

 鶴岡ならではの食の生産現場を案内する「鶴岡ふうどガイド」。行政や産業団体で組織する鶴岡食文化創造都市推進協議会が創設した認定制度だ。ボランティア的な食のガイドから一歩踏み出し、地域の農林水産物と旅行者をつなぐ食のスペシャリストとして養成された。山形デスティネーションキャンペーンに合わせ今年9月にデビューした。

 コースはガイド自らが設定。バスでの移動中に食材の歴史や秘話を披露、現場では生産者の補佐役に回る。「根粒菌」「自家採種」といった難しい用語が出れば、すぐさまスケッチブックで解説して見せる。生産者の苦労や夢を引き出す取材力も腕の見せどころだ。

 もぎ取っただだちゃ豆を農家レストランに持ち込み、ゆで方を学んで豆づくしの料理を楽しむ。微生物を活用したトマト畑では糖度の高さに感激。鼠ケ関港の「お魚夕市」では値切り交渉も。ツアー客の満足度は極めて高かった。

 プロとして歩み出した14人。飲食店の若旦那に野菜ソムリエ、東京出身のフリーライター、震災を機に移住した女性…とさまざま。が、思いは共通。「鶴岡の食の魅力を伝えたい」と実にシンプルだ。

 地域に根差した在来作物、珍しい旬の地魚、個性的な農家レストランや産直…。鶴岡市の食の現場には全国各地の行政、観光視察者が頻繁に訪れる。

トマトの生産現場で試食用を振る舞う鶴岡ふうどガイド。地域の食と旅行者をつなぐスペシャリストだ=鶴岡市

 しかし、案内するのは決まって、在来作物を研究する江頭宏昌山形大農学部准教授か市担当課職員。もちろんボランティアだ。ガイド的な存在もいるが、職業ではなく1日付き合って1500円程度の謝金で済ませてしまう。それが慣例化していた。

■「食から職へ」

 「食の都をPRするにはプロの語り部育成が欠かせない」と鶴岡食文化産業創造センターの深野修一統括事業推進員(56)。厚生労働省の雇用創造プロジェクト採択を受け、2013年度に「鶴岡ふうどガイド」の養成事業が始まった。「食から職へ」が合言葉。今年6~9月の山形デスティネーションキャンペーンを目指した。

 在来作物や鶴岡食文化創造都市の基礎知識に関する座学に加え、孟宗(もうそう)やヤマブドウなどの現地学習が特徴。山形大農学部が開講する在来作物の栽培実践講座「おしゃべりな畑」とも連携し「生産者の声を聞き、作業の苦労を体感する」がコンセプトだ。さらに、ベテランのバスガイドの指導でコミュニケーション力を磨き、止血法やハチに刺された際の応急手当てにも取り組んだ。

■起業を後押し

 こうして誕生したふうどガイドは14人。消費者、生産者双方の目を持つ食のスペシャリストだけに語る内容も濃い。「だだちゃ豆は冷凍するならゆでてから」「紅えびはオスとして成熟しメスに性転換します」といった地元の常識、うんちくに事欠かない。

 9月の第1弾に続き、11月1日の「焼き畑カブ345ロードへの旅」でさらに7人が初舞台を迎える。同センターが視察を切り盛りし、得意分野に応じてガイドを派遣する態勢づくりを進める。起業やNPOの立ち上げを検討するメンバーもおり、後押ししていく考えだ。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の創造都市ネットワーク食文化部門への加盟を目指す鶴岡市。先月に中国・成都市で開かれた年次総会で、榎本政規市長は「食の理想郷へ」と題した取り組み発表の中で、鶴岡ふうどガイドの活躍ぶりを披露した。加盟が承認されれば、各国のメンバー都市との連携が構築される。ふうどガイドの活躍の場は世界規模で広がる。

トマトの生産現場で試食用を振る舞う鶴岡ふうどガイド。地域の食と旅行者をつなぐスペシャリストだ=鶴岡市

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