第6部・県外の取り組みから(2) JAふくしま未来~幸せの羅針盤|山形新聞

幸せの羅針盤

第6部・県外の取り組みから(2) JAふくしま未来

2021/6/24 11:49

 協同組合の精神はSDGs(エスディージーズ)に通ずる―。福島市に本店を置くJAふくしま未来(数又清市組合長)は昨年、それを体現した。第4回ジャパンSDGsアワードで特別賞を受けた。沿岸部を含め、福島県北部の生産者で組織する同JAにとって新型コロナウイルスは東日本大震災、原発事故に続く災難。それでも「誰一人取り残さない」という理念の下、新たな難局に立ち向かっている。

 同県北部の組織が合併して誕生した県内随一の規模を誇るJA。農業県・福島の屋台骨を支えている。震災と、それに伴う東京電力福島第1原子力発電所の事故に襲われた。10年の節目を迎えたが、復興はまだ途上にある。そんな中でのコロナ禍。震災、原発事故から立ち上がった同JAの対応は早かった。

モモの摘果作業を行う手伝う大学生ら(左)。コロナ禍で困窮する学生に手を差し伸べた=2020年5月、福島県伊達市

 生産者への支援だけでなく、生活に困窮する地元の大学生に手を差し伸べ、小中学生が安心して学校に通えるよう、女性部はマスクを手作りして贈った。助け合い、協力し、共に歩む。コロナ禍の中、その支え合いの輪を組合員同士だけでなく、地域の中で広げたことが評価された。同JAの担当はこう言った。「今まで当たり前にやっていたことがSDGsにつながる。それを形にしたかった」

 あの日、未曽有の災害に巻き込まれ、そこから福島県の生産者は困難な状況を乗り越えなければならなくなった。2011年3月11日に起きた東日本大震災。東京電力福島第1原子力発電所の事故も発生し、復旧、復興だけでなく、風評被害とも闘ってきた。JAふくしま未来は、震災後の16年、この難局を力を合せて乗り越えるため、浜通りの一部を含めた同県北部の4組織が合併し誕生した。

 本県同様、福島県はフルーツ王国とされ、モモの一大産地。同JAの主力品目の一つでもある。他にキュウリやコメの生産、畜産も盛んだ。震災、原発事故からの復興に力を入れる中、コロナ禍が巻き起こった。新たな課題を突き付けられた。組合員の生産者を支援する一方で、食を支える組織として、昨春、地域の大学生を支える活動にも乗り出した。

■大学生を支援

食を支える組織として、大学生にコメを贈ったJAふくしま未来。コロナ禍で困窮する地域の人たちを支援した=2020年4月、福島市・福島大

 親元を離れ、経済的に困窮する大学生から希望者を募り、コメを贈った。生産技術の研究などで食農学類と協力関係があった福島大を皮切りに、福島市内の大学生を対象に計約2トンのコメを援助した。飲食店の休業などでアルバイト代が得られなくなった学生のため、果樹農家での仕事も用意。多くの人手を必要とする特産品・モモの摘果作業を約50人の福島大生に担ってもらった。「事前に研修会も開き、生産者にとっても助かる存在だったと思う」と同JAの村松善美地域支援課長は話す。

 全国的にマスクが品薄となり、福島市内の小中学生が困っていると聞けば、女性部の組合員が「福島わらじまつり」に参加するために用意していた浴衣の生地を使ってマスクを作成。手作りマスクは選果施設で作業する人たちにも配った。

 コロナ禍で生じた地域でのさまざまな窮状に即時対応してきた同JA。こうした動きは組合員や地域住民にSDGsの考え方を広める上で、絶好の機会と捉え、政府が進めるジャパンSDGsアワードに応募し、JAグループとして全国初の受賞につながった。

 「震災や原発事故の経験は大きい。困難を乗り越え、積み重ねてきた取り組みが『誰一人取り残さない』地域社会づくりにつながっていることを、組合員や地域の人たちと分かち合えた」。同課の山口直子係長は胸を張った。

継ぐ営みこそ

 広報紙に掲載されているイベントや各種活動を紹介するコーナーでは、SDGsが掲げる17の目標のうち、どの項目に該当するのかを紹介するようになった。組合員だけでなく、地元で暮らす人たちにまで支援の輪を広げている同JA。「どんな困難があっても、地域のために力を尽くし、先祖代々の土地を守り、引き継いでいく。その営みこそが持続可能な社会をつくる」。山口係長はその理念をこれからも、組合員と共有し続ける。

 ◆JAふくしま未来 新ふくしま、伊達みらい、みちのく安達、そうまの4JAが合併した。原発事故の計画的避難区域となった飯舘村、南相馬市と川俣町の一部を含め、12市町村が管内。約9万3千人の組合員数で福島県内で最大規模となっている。

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