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[27]消費者ニーズ反映、技術実用化 花王酒田工場(酒田)

2015/8/9 15:23
肌触りや香りなどの研究を重ね、日常生活の快適さを支える製品を生み出す

 洗いたてのシャツに清潔さを感じ、疲れを癒やした入浴後に清涼感を覚える。大量生産・大量消費の高度経済成長期を経た現代社会で、人は快適さを求める。快適さの価値基準は人それぞれだが、その尺度は、美しい光景や安らぎのある香り、柔らかな肌触りなど、五感から得られるものではないだろうか。

 ■研究は多彩に

 繰り返される日常生活の中で、「当たり前」であることの安心感。これも一つの快適さといえるだろう。花王(東京、沢田道隆社長)は、人が無意識のうちに抱く安心感と正面から向き合う。商品と製造ラインの構築、生活環境や生命科学の研究まで、すべての「モノ」を極める。理念となる「よきモノづくり」を酒田工場(酒田市、谷本均工場長)が支える。

 入浴剤、紙おむつ、洗剤など、手掛けるのは生活に密着した商品が多い。1887(明治20)年の創業以来、物質の仕組みを解き明かす研究技術を消費者ニーズに反映させ、実用化へと導いてきた。研究内容は原点の油脂、界面科学や微生物、生活習慣病、毛髪、皮膚、香りの感性科学など実に多彩だ。

 例えば洗濯洗剤。入社後20年間、洗剤の研究に携わった経験のある谷本工場長(56)は「時代の変化とともに汚れの度合い、洗濯の頻度、そして洗濯に対する考え方も変わってきた」と指摘する。衣類は天然素材から化学繊維に、洗濯機は少水量に変化。「自宅の洗濯機を分解し、内部の汚れ方や洗剤の影響まで研究した」と谷本工場長。その時代の人や道具に見合った洗浄力が必要になっている。

 紙おむつ「メリーズ」は赤ちゃんの皮膚や水の分子構造の研究成果を投影し、水蒸気は通すが水を通さないシートを開発。不織布を主に、十数種類の素材を組み合わせることでかぶれにくく、横漏れしないおむつを作り上げた。花王の国内9工場で唯一、酒田工場が生産するアイマスク「めぐりズム」は、材料構成を工夫することで発熱量を調整し、適温の約40度をキープ。マスクの内側にだけ水蒸気が出る加工を施し、両端の耳にかける部分に伸縮性のある素材を使うことで、フィット感を生み出している。紙加工製品の製造は、現場を支える人材が非常に重要で、同社全体で育成体制を整えている。

紙・シート加工技術の高さなどから、対岸貿易の拠点工場に位置付けられている=酒田市・花王酒田工場

 花王が酒田に工場を求めた背景には、庄内地域から供給される油脂原料として米ぬか油、魚油があった。さらに、これらを工業用油脂に加工するために必要な水素を、近隣企業から確保できたことも有利だった。昭和30年代に入り、各家庭に洗濯機が普及。酒田工場は東北・北海道向けの家庭用粉末せっけんを生産するようになり、同時に、社会基盤整備に欠かせないコンクリートの添加剤も作り続けた。

■対岸貿易、増加

 2000年代にかけて国内の交通インフラ整備が進み、物流の仕組みが変化。「物流量の多い東京や大阪を中心とした物流コストに比べ酒田からのコストはさらに割高になった」(谷本工場長)。大量消費を支えた酒田工場は節目を迎えた。この間、取り扱った製品は、紙・シート加工技術製品の毛穴パックといったコンパクトで高付加価値のもの。生産高が伸び悩む、苦しい時代だった。

 県は13年、酒田港に2基目のコンテナクレーンを設置。港湾機能の向上と歩調を合わせるかのように、中国市場などで「メリーズ」の需要が上昇した。港に近接する立地、蓄積してきた紙・シート加工技術、技術系の生徒・学生が多い人材面から、酒田工場は増産を担う位置付けに。香港を中心に、需要が高まる「めぐりズム」とともに、対岸貿易の増加が、現在の酒田港の活況につながっている。

【花王酒田工場】 1940(昭和15)年、日本有機酒田工場として操業。国内工場で唯一、日本海側に立地。入浴剤や紙おむつ、アイマスク、パック製品などを生産。敷地面積17万7千平方メートル。従業員数242人(8月1日現在)。

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