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[30]新幹線、航空機の座席部品を製作 丸範(山形)

2015/8/30 11:12
5軸加工機など最新設備も積極的に導入し、航空機や新幹線の座席に使われる金属部品加工などを手掛ける丸範=山形市十文字

 日本を走る新幹線のほとんどに使われている本県発の部品がある。丸範(まるはん、山形市)が手掛ける座席の骨組みだ。背もたれ、肘掛け、食事用テーブル、座席回転部品。どれも快適な旅を支える重要なパーツ。同社の製品は、特に座り心地の良さを要求されるグリーン車を中心に使われる。2011年12月には厳しい品質管理が求められる航空宇宙品質マネジメント規格「JIS Q 9100」を取得し、昨年から航空機の座席部品の量産も始めた。

 経営陣を入れて20人の小さな会社だが、国内の取引先はほぼ全て上場企業。海外にも輸出する。原点は1978(昭和53)年、31歳だった伊藤隆社長(68)が妻と2人、15坪のプレハブ小屋で始めた金属部品加工会社。工場の敷地は、今では千平方メートルまで広がった。

 創業から10年ほどたったころ、転機が訪れた。高圧ホースの継ぎ手や機械の金属部品、鋳造品の加工など、「どんな仕事でも」引き受けていた時期。商社や取引先の県内鋳物業者を通じて知り合った大企業から「この金属部品を削り出しで作れるか」との依頼が入った。ほかの仕事でもやってきたように、丁寧に仕上げて届けると、仕事ぶりが評価され、正式契約へと話が進んだ。腕試しされた部品は新幹線の肘掛けで、依頼主は鉄道などの座席を生産する大手メーカーだった。その後、回転装置、ペダルと次々と依頼が増えていった。

 東海道・山陽新幹線を走る「のぞみ」など、新幹線の主流になっているN700系は普通車、グリーン車合わせて100編成は手掛けた。東北・山形新幹線はもちろん、金沢延伸で注目を集める北陸新幹線や台湾新幹線にも、丸範の部品が使われている。

■「Q9100」

 丸範の強みは、短い納期、高い精度、低いコストの3本柱を同時に実現している点。そのために、複雑な形状の加工を高精度、かつ短時間でできる5軸加工機など最新設備を先駆けて投入する一方で、複数の装置を同時に操れる多能工を育ててきた。

 さらに事業拡大のきっかけになったのが、「JIS Q 9100」の取得だ。認証を受けるには、細部まで管理を徹底した品質マニュアルを作成し、これに沿って全作業を進める態勢を構築しなければならない。

強度の高いアルミから高精度で削り出した製品

 実際の製品づくりの前には、間違いなく良品が出来上がる最善の製造工程を社内で考案。これを“教科書”に各工程を行う。材料発注に始まり、溝の彫り込みや穴開けなどの各作業を誰がいつ、どういう段取りで実施したのかは、個別の段階、製品番号ごとに作業手順書に記入し、管理。これは、万が一の不具合があった際に原因をたどる履歴確認が可能な文書であるだけでなく、それぞれの工程を決められた通りに実施したという確認書でもある。

■小規模の利点

 規格の認証は、これだけの品質管理ができる企業であることの証といえる。取得は、伊藤社長の長男で専務だった大輔さん(故人)が将来を見据えて主導した。専門のコンサルタントを招き、およそ4年をかけて態勢を整えた。一部の管理職だけが規格の意味合いを理解している大企業とは違い、丸範では従業員全員が理解した上で日々の業務に当たっている。「小さな会社だからこその利点だね」と伊藤社長は笑う。

 取得により本格的な航空機産業分野への参入が可能になり、12年8月にはアメリカの航空機シート大手メーカーとの取引を開始。14年には量産を始め、ボーイング社やエアバス社の航空機の座席にも使われるようになった。丸範の金属製品は誰もが見られる場所にはないが、世界の空を飛び回っている。(ものづくり取材班)

【丸範】 1978(昭和53)年、山形市十文字に創業。社員数20人。削り出しによる精密金属加工部品の生産を手掛ける。新幹線や航空機の座席部品の加工、組み立てが中心。

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