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[32]安心安全支える検知器 山形共和電業(東根)

2015/9/20 12:22
緻密な加工技術が求められ、顕微鏡をのぞきながらの確認が欠かせない=東根市

 厚さは30ミクロンほど。一見すると、シールと間違いそうなその製品の名称は「ひずみゲージ」。物体自体が伸びたり縮んだりする「ひずみ」を電気信号として検出する機能を有する。活用される産業は幅広く、安全性が求められる製品の開発などには欠かせない。

 ひずみゲージの国産1号品を世に送り出した共和電業(東京・調布市)。中核拠点でもある山形共和電業(東根市)が約4割を占める国内トップシェアの生産を一手に引き受ける。「われわれが手掛ける製品は社会の安心安全を追求している」。山形共和電業の安孫子初社長(66)の言葉に強い自負がのぞく。

 例えば自動車。交通事故が起きた場合に乗員や歩行者の身を守るため、メーカー各社は車体の安全対策に積極的に取り組んでいる。そこで欠かせないのがバリアー(壁)に自動車をぶつけて車体の衝撃吸収性などを確認する衝突試験。衝撃の影響を数値として立証するため、ひずみゲージは壁や車体、ダミー人形の各所に貼り付けられる。その数は200カ所以上ともいわれる。

 ■ニーズに対応

 各種センサーの心臓部となるひずみゲージの製造工程はこうだ。ベースとなる樹脂に金属箔(はく)を貼り付け、感光樹脂を塗布。その上で写真現像の仕組みを応用し、電気信号を検出する素子の型を焼き付け、化学処理により不要部分を溶解するエッチング加工を施す。クリーンルームでの作業は微細な加工技術が求められるからこそ、顕微鏡をのぞきながらの確認が欠かせない。同社はコア製品の生産技術を応用し、ニーズに応じたセンサーも製造する。荷重計や圧力計、加速度計、変位計…。その種類は3千にも上るという。

 「縁の下の力持ち的な存在」。データの正確性が安全性能を左右すると言っても過言ではないだけに、安孫子社長は自社で手掛ける製品をこう評する。その言葉通り、同社の製品は自動車産業だけにとどまらず、あらゆる分野の安全を陰ながら支え続けている。

 インフラ分野では水圧計などの各種センサーがダムに埋設され、壁面にかかる水圧や地盤の緩みなどの継続的な観測を支える。県内では月山をはじめ、蔵王や鶴子、長井などの各ダムに採用されているという。交通システム分野では自動料金収受システム(ETC)の車種を判別する検知器が活躍。実例を挙げればきりがないほど、同社の製品は社会生活に密着している。

物体の伸縮を電気信号として検出する「ひずみゲージ」。あらゆる分野の安全を影から支える

 また航空分野では国産初の小型ジェット旅客機「MRJ」(三菱リージョナルジェット)の強度試験に用いられ、風圧や気圧などが機体に与える影響を計測。安全性を評価するためのデータを収集する。

 ■品質世界一へ

 「品質世界一」。同社の目指す方向性は明確だ。ひずみゲージの年間生産量は250万枚。世界には1千万枚に上るメーカーが存在する中、質で勝負に打って出る。従来よりも空気清浄度の高い製造環境を保つクリーンルームを配備した新工場棟の整備も世界一への布石だ。

 950度の超高温環境に耐えられるひずみゲージは世界で唯一の製品で、原子力発電用タービンブレードや自動車の排気システムなどの開発試験に用いられている。水素社会を見据え、高圧水素ガスの中でも腐食などへの耐性を持つ製品も手掛ける。また長く安定して使用できるひずみゲージの製造にも取り組み、テストでは1千万回超まで疲労寿命を延長できることをデータで証明。「蓄積したノウハウがオンリーワンの技術力につながっている」と安孫子社長。「世界一」という頂きに向けた歩みは加速している。

 (ものづくり取材班)

【山形共和電業】1973(昭和48)年、共和電業の生産子会社として設立。2000年に村山市河島工業団地から現在地の大森西工業団地(東根市)に移転。従業員は209人(15年4月現在)。14年12月期の売上高は約26億円。

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