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[33]医療用高分子素材を生産 高研鶴岡工場(鶴岡)

2015/9/27 10:57
高研が手掛ける製品。手前から気管カニューレ、コラーゲンを活用したドライアイ治療薬と化粧品原料=鶴岡市・高研鶴岡工場

 毎日を健やかに、快適に過ごしたい。もっと美しく自分らしくありたい―。

 高研(東京都、垂水有三社長)は、高分子素材の研究開発を通し、人々の健康と美を求める願いに確かな品質で応えている。

 開発から受注、生産、出荷までを一手に引き受ける鶴岡工場(鶴岡市、福嶋健治工場長)は、高研の生産拠点。製造部門と開発部門が直結した生産体制を取ることで、消費者のニーズに合った製品をスピーディーに生み出している。

■“人工肉体”

 高研は1959(昭和34)年、鶴岡市出身の秋山太一郎氏が創業。医師であり高分子素材の研究者だった秋山氏は、シリコーンで本物そっくりの耳や手足を作り、戦争や病気、けがで体の一部を失った人たちに提供した。

 創業の背景には「患部を外観だけでも再現し、患者が安心して社会生活を営めるように努めるのも、医療に携わる人間の務めではないか」という秋山氏の思いがあった。

 シリコーンによる“人工肉体”の生産技術はその後、高研を支えるメディカルプラスチックと生体モデルの2事業に継承された。

 メディカルプラスチック事業の主力製品は「気管カニューレ」。気管切開の手術をした後、切開部から気管内に挿入して呼吸に必要な酸素の通り道を確保したり、痰(たん)などの分泌物を吸引したりする医療器具だ。当時主流だった、硬くて異物感のある金属製カニューレに対し、温かみのある高研のカニューレは、生産開始から40年以上たった今でも高い支持を得ている。

 生体モデル事業の主力を担うのは、高度救急処置の実習に使われる人形「セーブマン」と、新生児に関する各種演習・指導に最適な赤ちゃん人形「コーケンベビー」。セーブマンは全国802カ所の消防本部に配備され、コーケンベビーは全国に約7万体が出荷されている。

コーケンベビーの検査の様子。外観や首の据わり具合など約30項目に上る厳しい検査をパスした製品だけが出荷される=鶴岡市・高研鶴岡東工場

 福嶋工場長は「セーブマンの前身、蘇生訓練用生体シミュレーター『レシム』は蘇生に成功すると『ありがとう』と話した。しかし蘇生してすぐにお礼を言う患者はいないと、この機能は医者に不評だった」と笑う。

■「役に立つ」

 高研を支えるもう一つの事業に、コラーゲンを利用した製品の開発がある。コラーゲンはタンパク質の一種で、人の体を構成する全タンパク質の約30%を占める物質。高研は77(昭和52)年、コラーゲン研究の権威だった宮田暉夫氏(2代目社長)を研究所長に招き、中性で水に溶けるコラーゲンを開発。溶液、糸、スポンジなど、さまざまな形状に加工する技術を確立した。

 これらの技術を使い、止血材、皮膚の陥没部を補正修復する皮下注入用コラーゲン、ドライアイ治療薬など、独創性あふれる製品を医療の現場に届けている。また医療用途と並行し、化粧品原料としての開発にも取り組んでいるほか、再生医療に応用できる細胞培養用コラーゲンの生産など新たな展開も見せている。

 「一番大切なのは患者や医療・介護関係者らの役に立つこと」と強調する福嶋工場長。「社員が常にアンテナを高くしてニーズを探ることで、最近ではポリープを切除し、止血の練習もできる内視鏡トレーニング用の生体モデルが生まれた」と話した。

 創業時から受け継がれている、人の幸福につながる製品を提供するという精神と、客のニーズに迅速かつ的確に応える姿勢が、独創的なものづくりを支えている。(ものづくり取材班)

高研鶴岡工場 1977(昭和52)年に開設。メディカルプラスチック製品とコラーゲンの生産を行っている。近接する鶴岡東工場では、きめ細かな手作りによる生体モデルの製造に取り組んでいる。従業員数170人。

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