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挑む、山形創生

第1部「働くということ」 (5) 人口減の要因若者たちは今

2016/1/6 16:40
本県出身の学生たちが暮らすやまがた育英会駒込学生会館。玄関を入るとすぐ、Uターン就職の情報が掲示されている=東京都北区

 進学や就職で県外に出る若者がどのくらいいるか、ご存じだろうか。県の資料によると、18~24歳の県外への転出(2013年10月~14年9月)は6858人。一方、同じ年代の県内への転入は3533人。つまり県内では1年間に、この差3300人余りの若者が減っていることになる。

 同じ時期の県内全体の社会減は3840人。実に社会減の9割を若者の流出が占める計算だ。人口減少問題を考える上で若者の定着、回帰を避けて通れない理由がここにある。

 では、その年代の若者たちはわが県、そして「働くこと」にどんな考えを持っているのだろうか。

■やりたいこと

 東北芸術工科大4年の有路佳奈子さん(21)=山形市出身=は鶴岡市のデザイン会社から内定を得て、今春、社会人生活をスタートさせる。「高校時代は東京に憧れていた。大学に入ってから山形の魅力に気付き、残りたいと思えるようになった」

 東京在住の教員たちから山形の良さを繰り返し指摘されたことが地元への見方が変わるきっかけになった。仕事について「生きていくために必要なのはもちろん、地域貢献の一つの手段と考えている」と穏やかな口調で話した。

 「山形で働きたいが、県内に限定すると、やりたいことができなくなる」。山形大大学院3年の山田直也さん(26)=上山市出身=は仕事に対する葛藤を感じている。山形南高を卒業し、山形大工学部に進学した。さらなる学びを求めて大学院に進んだが、細分化された専門分野を生かせる職場はごくわずか。

 研究で得た知識や技術を生かしたい。「ある程度の妥協は必要」という先輩や友人からの助言にも納得できない自分がいる。

 東京都北区、山手線沿線にある学生寮「やまがた育英会駒込学生会館」。本県出身の男女103人が暮らしている。ここでは東京にいながら、入寮生が互いに山形弁で話し、少なからず山形を意識しながら、学生生活を送っている。玄関を入ってすぐ目に入るホワイトボードには就職セミナーや公務員試験など、本県の情報が貼り出されている。

 「絶対山形に帰りたい。東京で暮らしていくことは考えられない」。日本大2年の斎藤友太郎さん(20)=東根市出身=は迷いのない強い口調で話す。都会で育った大学の友人とは考え方や感覚に違う部分を感じていて、東京のせわしい雰囲気も得意ではない。

 プライベートを充実させ仕事をしながら、好きなことを楽しむ生き方がしたい。Uターンして公務員になるつもりだ。

 就職活動が目前に迫る早稲田大3年生の佐藤大奨さん(21)=山形市出身=は、既に古里には帰らない決断をした。古里への愛着がないわけではない。就職したいのは放送局や番組制作会社などテレビ業界。東京など大都市が中心の業界で、山形の優先度は低くならざるを得ない。「テレビの仕事に就ければ、山形にいなくても山形のためになることはできるんじゃないかな」と照れくさそうに話した。

■少ない選択肢

 専門分野を生かせる職場の少なさ、同一業種内での限られた選択肢、地域の魅力を伝え切れていないことなど、若者流出の要因は数多く考えられる。全てを一度に解決はできないが、山形に人を呼ぶ流れのきっかけをつくる必要がある。

 山形大でキャリア教育などを担当する福島真司教授は東日本大震災以降、社会性の高い仕事に関心を持つ学生が増えていると感じている。「『山形のために残って』と言うのではなく、やりがいや生きがいを提示することがわれわれ大人の役割ではないか」と話す。

(「挑む 山形創生」取材班)

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