大阪市内で建築設計工房を営む伊藤千春さん(38)=村山市出身=は昨年、大阪市内で知人らと「芋煮ガールズ」を結成し、芋煮を通じて山形の文化を発信している。今年のゴールデンウイークにはガールズのメンバーや、芋煮を食べて本県に興味を持った大阪の人たちを対象に「山形芋煮ツアー」を企画。参加者からは「自然が豊かなので、もう一度来たい」「山形の食べ物は関西人の口に合う」と好評を得たという。
ガールズの中心メンバーは現在5人ほど。非公認キャラクター「イモニちゃん」を考え、関連グッズを販売するなどしている。今年9月には、山形市で開かれる恒例の「日本一の芋煮会フェスティバル」に参加し、イモニちゃんのPRも計画している。伊藤さんは「古里の名物をよそで発信することで、他地域の風土と融合して新しい付加価値が付くこともあるのではないか」と話す。
山形の食に対する関心が広まるにつれ、「芋煮ガールズ」を結成した伊藤さんのように、本県出身者が県外でアピールするケースが見られるようになった。海を越えた話もある。
■せんべい輸出
本県で高い知名度を誇る「オランダせんべい」。創業65年の酒田米菓(酒田市、佐藤栄司社長)が製造する薄焼きせんべいが今春、縁あってオランダに渡った。
オランダせんべいの名前の由来は、方言交じりの「おらだ(私たち)のせんべい」。遠く離れたオランダ・アムステルダムで暮らし、日本食材の宅配業を営む武田忠博さん(56)=大江町出身=が同社に取引を打診。「子どもの頃から食べていた味。冗談でなくオランダで売りたいと思っていた」と明かす。同社の快諾を得て仕入れ、現地の各種パーティーなどで振る舞った。駐在する日本人だけでなく、オランダの人たちにも好評だったといい、武田さんは「航空会社の機内食に採用されるよう営業をかけたい」と意気込む。
ドイツで2008年から、オランダで14年から毎年秋に70人規模の芋煮会を開く武田さんは「山形には高品質の食材がたくさんある。欧州全体で15万人いる日本人でも知らない人が多い」と実感を込める。
こうした自主的な動きの一方、首都圏などを見据え、新たな販売戦略を立てるメーカーも出てきた。顧客と双方向通信し、山形の食を売り込んでいる。
■3000円のジャム
セゾンファクトリー(高畠町、斎藤雅一社長)は、百貨店を中心に首都圏や関西圏に30店舗を構え、ジャムやジュース、ドレッシングの製造をメインに、スイーツなどの分野にも力を入れている。1個3千円のジャムや1本4千円のジュースが飛ぶように売れているという。斎藤社長は「目指すは想像を超えたおいしさ」と力を込める。
販売戦略の柱は対面販売だ。店頭で集めた客の声は月2回の会議で共有、商品開発に生かされる。さらに今年5月、新たな一手を繰り出した。通販の担当部署に「プロモーションチーム」を新設。フェイスブックやツイッター、ラインなど会員制交流サイト(SNS)を活用している。
町内にある自社農園でバジルなどを栽培しており、社員自らが種まきから植え付け、収穫までを行い、生育状況をSNSで発信する。対面販売との決定的な違いは双方向性。単においしくできた「モノ」を買ってもらうだけでなく、どんな生産者がどういう思いで、どのような作り方をしているかという「コト」情報を発信することで、客と生産者の間に共感が生まれ、商品価値につながるという。「商品が客の手元に届くまでのストーリーごと味わってもらいたい」。斎藤社長の言葉には、山形の味に対する自信がうかがえる。
(「挑む 山形創生」取材班)
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