暖流と寒流がぶつかって豊かな漁場をつくり、130種類以上もの魚介類が揚がる庄内浜。サクラマス、イワガキ、ハタハタ、寒ダラのほか、既に全国規模でブランドが定着した「庄内おばこサワラ」、首都圏で高値取引されるトラフグも。鮮度と種類の豊富さが庄内浜で取れる魚の売りだ。
一方で、庄内浜を取り巻く漁業環境は厳しく、課題が多い。漁業生産額は2015年、7年ぶりに30億円の大台に乗ったものの、長期的には減少傾向が続く。家庭の魚離れに伴う魚価の低迷がその遠因で、漁師の収入低下に直結している。
■漁を目にせず
県庄内総合支庁水産振興課の板本健児専門員は「市民が漁の場面を目にする機会はほぼない。漁業が身近に感じられず、魚離れの理由になっているかもしれない」と説明する。味、鮮度は抜群なのだから、魅力が広まれば、消費が増え、稼ぎが増え、就業希望者が増える。漁師、市民の接点づくりは庄内浜、魚介類のPRにつながる。今後、どのような方策で実施するかが求められている。
13年の県内海面漁業就業者数は474人と、20年前に比べ半減した。そのうち60歳以上が66%を占める。他の1次産業と同様、漁業も担い手育成が急務だ。国、県は育成への補助金を用意。その後押しもあり、庄内浜にはわずかずつだが、新規就業者が誕生している。
課題が山積しているからこそ、現状を打破すべく奮闘する若手漁師は多い。「昔のようにただ魚を取るだけの漁業では衰退していくと思う」。鶴岡市の米子漁港を拠点にしている漁師鈴木剛太さん(31)=同市温海=は、意欲的に漁業に取り組む傍ら、地元で体験学習会を企画し、子どもたちが海や魚と触れ合う機会をつくっている。
鈴木さんは家業を継いだわけではなく、釣り好きが高じて漁師の道を進むことを決めた。高校卒業後、地元の底引き船の乗組員とし2年ほど勤務。その後は県外で別の船に乗り、漁師としての経験を重ねた。21歳で地元に戻り、はえ縄漁師として独立した。
■こだわる品質
漁をする上でこだわるのが品質管理の徹底。首都圏で高級魚とされるトラフグなどは、専用の箱を使い活魚出荷する。魚価が低迷し、収入低下に直面しているからこそ「農業と同じように品質を高めて単価を上げていくしかない」。庄内おばこサワラの出荷に取り組むメンバーの1人でもあり、仲間と共に新しい活路を模索している。
漁師として日々過ごす中で感じるのは、漁業への関心の低さ。地元に住んでいても庄内浜でどんな魚が取れるか分からない子どもがいるのが現状だ。3、4年前からは、地元の「あつみ保育園」でマグロの解体ショーや稚魚放流を行い、子どもが海に興味を持つきっかけづくりを進めている。
仲間を増やすためには、その魅力を自ら発信することが大切だと感じている。「かっこいいところを見せたら自然と漁師になりたい人も増えるんじゃないかな」と精悍(せいかん)な笑顔を見せる。若々しい新たな波は、少しずつ、しかし着実に庄内浜に広がりつつある。
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海、平野、盆地と変化に富んだ自然に囲まれる本県で今月10、11日、天皇、皇后両陛下が臨席し、第36回全国豊かな海づくり大会が初めて開かれた。大会は母なる川・最上川が注ぐ日本海、多様な文化を育む庄内浜の豊かさを再認識する契機となった。古里の海に携わり暮らす人々や港の姿などを改めて見つめ直しながら、海という資源を生かした地域活性化の可能性を探る。第8部のテーマは「海に生きる」。
(「挑む 山形創生」取材班)
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