挑む、山形創生

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挑む、山形創生

第9部農林業の可能性(1) ブランド力さらに強化へ

2016/10/17 15:25

 農業県・山形。この称号に疑いは持たないだろう。2014年の統計では、本県の代名詞ともいえるサクランボの収穫量は1万4500トン、ラ・フランスに代表される西洋ナシは1万4900トンでいずれも全国トップの座を譲らなかった。基幹作物のコメも42万3千トンで全国4位だ。厳しい気候風土の北の地ではあるが、生産者のたゆまぬ努力が、本県の地位を築き上げたといっても過言ではない。

■「猫の目」農政

 農家所得に直結する産出額で見ても、本県は誇らしい成果を残している。14年のデータで果実は642億円で青森県に次ぐ全国2位。米価の変動で影響を受けるが、コメは668億円で全国5位だ。基盤産業である農業の発展が、本県の地方創生には欠かせない。だが、農業を取り巻く状況は変化が激しい。「猫の目」とも揶揄(やゆ)される農政に翻弄(ほんろう)されている。「現場は高齢化と担い手不足にあえいでいる」と中山間地の生産者は深刻な状況を明かす。環太平洋連携協定(TPP)や米価下落、18年産から廃止される主食米の生産調整(減反)など、不安材料を挙げればきりがない。

 本県農産物で最も有名なサクランボ。質、量ともに現在は絶対的な全国一の地位を確立しているが、生産現場には課題が山積している。収穫、出荷の作業は6~7月に集中。生産者は早朝から夜遅くまで作業に追われる。収穫は脚立の上での高所作業となり、丁寧に、素早く実を摘み取らなければならない。主産地の一つ、天童市の農家で働く女性は「仕分けをしながら箱詰め作業をこなすには、経験が必要」と指摘する。雇用情勢の好転に伴い、短期間に多くの人を必要とする仕事の働き手を確保するのは困難になっている。

太陽の光を浴びる色鮮やかなリンゴ。本県の地方創生に農業の発展は欠かせない=朝日町

 園地を覆う雨よけテントは各主産地で導入から30年程度経過し、老朽化。更新しなければならない時期にきているが、大規模な設備投資をできる余裕がある農家は多くないという。高齢化で離農する生産者も増え、15年の農家戸数は10年より1830戸減少。現在は1万2千~1万5千トン程度の生産量を保っているが、このままトップシェアを維持できる確証はない。

■米価下落懸念

 コメの生産現場は、政府による生産調整の廃止を控え、動揺を隠せない。食生活の多様化などで毎年8万トンずつ需要が減るとされるている。「作り過ぎを抑えてきた減反がなくなると、供給超過で米価の下落を招くのではないか」。米農家の中には懸念する声もある。県などは代替的な調整機能を準備しているが、先行きは不透明だ。10アール当たりの収量(単収)日本一にもなった本県の生産者の技術力は高いが、いまや米作りは量より質。県やJAの担当者は「良食味米をいかに作り、売り込めるかが産地間競争を勝ち抜くための要」と指摘する。

 ブランド米競争は激化し、戦国時代の様相を呈している。ただ、本県には新潟県魚沼産コシヒカリに次ぐ市場評価を得ている「つや姫」がある。こうした強みを生かしつつ、生産者が果敢に新たな挑戦をしていくことが、農業県・山形のブランド力をさらに強化することになり、地方創生の実現につながる。

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 本県には全国に名をとどろかせる農産物が多い。豊かな森林資源を含めた農林業は本県の強み。農業を取り巻く環境は厳しいが、明るい話題もあり、林業は「やまがた森林(モリ)ノミクス」の進展で光が当たり始めた。第9部は「山形創生」に欠かせない農林業の可能性を探る。

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