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挑む、山形創生

第9部農林業の可能性(2) 挑戦続ける水稲農家

2016/10/18 14:26
県産ブランド米「つや姫」の収穫作業。「売れるコメ」をいかに作れるかが鍵だ=寒河江市

 秋の日差しを浴びながら、コンバインが黄金色に輝く稲を刈る。今月初旬、寒河江市内で県産ブランド米「つや姫」の水田を団地化した「つや姫ヴィラージュ」では稲刈りが佳境を迎えていた。コメが基幹作物である本県は、政府のコメ政策や需要動向の変化により、影響を受ける生産者が少なくない。将来にわたって安定した所得を確保していくには、いかに「売れるコメ」を作るかが明暗を分けるといえる。

■追い越せ魚沼

 つや姫は認定生産者しか栽培することはできず、栽培適地に水田を持ち、技術レベルが一定程度なければ作ることができない。こうした徹底した「製品管理」戦略が、市場評価全国一の新潟県魚沼産コシヒカリに次ぐ地位に押し上げた理由。ブランド米競争で、県外他産地は、つや姫の取り組みを研究している。

 ヴィラージュ(仏語で村・集落の意味)は、同市南部の生産者13人が「つや姫」の一大産地を形成しようと15ヘクタールの水田を集積。土壌条件が似た圃場で統一した肥培管理を行い、高品質な良食味米生産に取り組む。現在は46ヘクタールまで拡大し、28人2団体が栽培する「つや姫」産地のモデル地区だ。産地としての知名度も向上。村長の土屋喜久夫さん(63)は「追い付け、追い越せ魚沼が合言葉」と話す。

こだわりのコメを直販する井上農場。出来たての精米を日々、発送する=鶴岡市

■銀座で売るべ

 「おらだの米、銀座で売るべ」。始めた当初の願いは昨年かなった。有名百貨店で「村」のコメが並んだ。今年からは近畿地方に新たな販路も獲得。「ようやく他のつや姫より500円ほど高く買ってもらえるようになった」と土屋さんは胸を張る。その理由は、水や土壌、気候が良かったことや、JA、県などと連携を図り、市場評価の高い「つや姫」を作っていたことだけではない。集まった仲間たちが「売れるコメを作ろう」という同じ目標で集約化を図り、生産に取り組んだ結果だという。

 水稲生産の多い本県の中でも、米どころとして名高い庄内平野。鶴岡市渡前で「井上農場」を営む井上馨さん(64)は自前のライスセンターで従業員と共に乾燥作業に当たっていた。18歳で就農し、経営規模を少しずつ拡大。家族以外に数人を雇用し、約44ヘクタールを経営するコメ中心の専業農家だ。トマト、小松菜なども手掛け、一年を通して田畑で汗を流す。

■「顔が見える」

 JAに一切出荷せず、独自の販売ルートを確立。農薬の使用を極力抑え、化学肥料を使わない特別栽培にこだわり、顧客に精米してすぐに届ける。一般的に流通するコメと比べ、2倍ほどの価格設定だが、関東をメインに800~850の送り先を持つ。「JA出荷から離れて20年ぐらい。当時、全量直販の農家はそういなかった」と振り返る。販売、資金繰りのリスクは高いが「生産者の顔が見える」経営を実践し、消費者の信頼をつかんでいる。

 ただ、本県には販路を自ら開拓するトップランナーだけがいるわけではない。JAなどの系統出荷に頼らざるを得ない兼業や、小規模の農家も多い。米どころ山形として、生産者同士が競い、支え合い、多様な経営体の在り方に応えられる農政が求められている。

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