県内、特殊詐欺の実態~闇に迫る

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県内、特殊詐欺の実態~闇に迫る

第1部[1]・判決受けた「受け子」の告白(上)

2015/10/22 12:52
判決後に取材を申し込み、刑務所に勾留されていた高木孝司(仮名)から届いた手紙。「裁判を聴いていただきありがとうございました」とあった

 山形地裁の法廷で、オレオレ詐欺の「受け子」として懲役3年6月の求刑を受けた高木孝司(33)=仮名=が突然、裁判官に訴えた。「まだ警察に話していないことがある。電話番号を教えてくれたのは、知っている人物だ。それを話したい」。裁判官は後で弁護士に伝えるよう促し、その場は終わった。20日後、高木に懲役2年の判決が下った。

 高木はなぜ、最後に仲間の秘密を話そうとしたのか―。判決確定まで山形刑務所に勾留されていた高木に手紙で取材を申し込むと、すぐに返事が来た。「私でよければ協力します」

 刑務所を訪ねると、丸刈り頭に黒縁眼鏡の高木が現れた。「自分は下っ端の人間。使い捨てにされた」。無機質な面会室のガラス越しに、高木が受け子の現実を語り始めた。

 東京で日雇いの肉体労働をしていた高木は4月末、現場であばら骨を折った。仕事ができなくなると、同僚から怪しい話を紹介された。「ある人物を家に泊めるだけで金をやる」。その後、家に泊めた人物の「知人」から「金を運ぶ仕事はどうだ」と誘われた。この知人が、詐欺グループの勧誘役だった。

 6月に高木は受け子を始めたが、その生活は2週間ほどで終わる。山形市内に入り同月16日、山形署の「だまされた振り作戦」により詐欺未遂容疑で逮捕された。その後、兵庫県の女性から500万円をだまし取った詐欺容疑で再逮捕され、起訴された。

 「万が一、逮捕されても前科、前歴がなければ実刑はつかない」「20日間黙っていれば釈放される。こっちから弁護士と支援金を送る」。勧誘役は高木にこう話していた。高木はこの約束を信じ、捜査に対して犯行は認めたものの、勧誘役の存在を隠した。

 だが、約束はうそだった。確かに勾留中、詐欺グループに雇われている東京の弁護士が、一度だけ接見に訪れた。弁護士は高木に「分かってるよね」とだけ伝えた。その意味は「何も話すな」。高木はうなずくしかなかった。

 暑中見舞いのようなはがきが勧誘役から留置場に届いた。気に掛けてくれていると思い、「被害者に弁済するために現金を送ってほしい」と返事を出したが、宛先不明で戻ってきた。その他のことといえば、知らない住所から2万円が届いただけ。「こんなに何もしてくれないとは思わなかった」

 高木は勧誘役を「完全な詐欺師の子飼い」と言い表して、勧誘役の上に“本ボシ”がいることを示唆し、「自分は子飼いにだまされた」と語った。約束を破られたという思いから、法廷で勧誘役を明かそうとしたという。

 本ボシは自分の身を守る巧妙な手を打つ。そのために切り捨てられた。現在まで、勧誘役が県内で逮捕された形跡はない。「無理なようだ」。面会室の高木は、すでに諦めていた。(敬称略)

 電話で息子を装ったり、うその投資話や架空請求を信じ込ませたりして金をだまし取る「特殊詐欺」の被害が深刻だ。今年の県内の被害額は9月末現在で約1億5900万円。だます側、だまされる側それぞれの事情を追った。

(特殊詐欺取材班)

受け子 詐取金の受け取り役で、犯行グループの末端に位置付けられる。別人に成り済まして被害者宅を訪れるほか、被害者から送られてきた現金をマンションの空き部屋などで受け取る。最近は未成年がアルバイト感覚で加わるケースが目立つ。今年、県警は9月末までに受け子14人を摘発。うち5人が未成年だった。

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