昔とんとあったけど。昔あっ所さ大っけな沼あったけど。あっどぎ、1人の若え男、最上川ずっと登て、ほの沼ん所まで来たけど。ほんで、ほの沼あんまりきれえださげ、男ぁほごさ休んで笛吹えだけど。ほうすっど、どっからが、めんごえ娘出できて「お前ぁあんまり上手ださげ俺の聟えなてけろ。実ぁ俺ぁこの(※)沼の主だ。どうが俺ど一緒えなて、ここで暮らしてけろ」て言うけど。ほんで、男ぁ(※)動転して、「これぁ大変だ。何じょがして逃げねばなんなえ」て思て「2年経ったら必ず戻てくっさげ、ほれまで待ってでけろ」と言って、まだずうっと行ったけど。
ほのうず、2年過ぎですまたけどぁ。男ぁ娘ど約束したごどなのぺろっと忘っですまて、舟で最上川ずっと下てきたけど。ほんで、舟、沼の近ぐまで来たれば、ぴたっど止まてすまたけど。みんな、たまげて「何だ、何だ」て言ったれば、船頭「この中さ、誰が沼の主がら(※)見込まっだ人える。みんな頭さ被った被りもの、川さ投げでけろ」て言ったけど。ほんで、みんな笠どが手拭どが投げだけど。ほうすっど、不思議なごどに、みんなのは水さ浮がんで流っで行ったげども、ほの男の手拭だげぁ川の底がら引ぱらっで、すっと沈んで行ったけど。男ぁ「沼の主がら見込まっだなぁお前だ」て言わっで、舟がら降ろさっだけどぁ。ほうすっど、どっからが娘出で来て、男ど2人並んで沼の方さ行ったけどぁ。ほの沼がらぁ、今でも、月夜の晩、笛の音聞こえでくんなだど。とんびすかんこなえけど。