むがしあったけど。海岸の村さ行って、牛さ魚を積んで町さ戻ってくる牛方がおったど。峠まで来るど、山姥が追っかげできて「鯖の袋、1づ置いでいげ。でないど、牛もおまえも食っちゃうぞ」て(※)言うもんだはげ、鯖1袋置いで、牛を引っぱるげんど、牛はのたりのたり歩ぐもんで、山姥は「もう1袋、置いでいげ」て、次々に食った後で、牛まで食ってしまったもんだど。牛方は逃げで、大川を渡り、暗ぐなってしまったもんで、山の中の灯のある一軒家さ走ったど。
とごろが、なんとその家は山姥の家であったがら、(※)そろっと天井さ隠っでいだら、山姥が戻ってきたど。「ああ、今日は鯖も食たし、牛まで食たがら、甘酒でも温めて飲んで、寝っどすっか」て、大鍋に甘酒入れで囲炉裏さ掛げで、こっくり居眠りはじめだど。
牛方は屋根の茅1本抜いで、天井がら甘酒みな吸って飲んでしまったど。山姥、目さまして「こりゃ火の神飲んだんじゃ、仕方ない。今夜はちょっと寒いがら、木の(※)唐戸さ入って寝っどすんべ」て、たぢまぢ寝息立てだど。
牛方は天井から下りで、唐戸の蓋さ大石あげで、キリで穴開げで、そごがら大鍋の煮え湯をどっと入れでやったど。
次の朝、蓋開げでみたら、鼻緒の切れだ下駄だったど。古いがらて、粗末にさんねもんだど。とーびんと。