昔あったけど、(※)加茂の勘内じいさん、(※)大山で(※)無尽あってごちそうなってがら、(※)つとこの魚しょって戻ってきたけど。
酔っぱらいながら加茂坂歩いていだば、暗ぐなってきたけど。したば、前の方がらきれいだ娘来て「じいさん、背中さしょっている物なんだ」て聞ぐけど。「無尽でもらってきたごちそうだ」て言ったば、娘「おれの『(※)あが』と(※)取っけっこそうで」て言うけど。じいさん、家さあがいねさげ「いいぜ」て言って、ごちそうの魚どあがど取っけだけど。するど娘、つとこしょってドンドと走っていなぐなったけどや。
じいさん気味悪ぐなって、加茂坂ドンドと下って家さ着いだけど。「ばあさんや、めんごい『あが』もらってきたぜ」て背中から下ろして見だば、大き鴨、枯れ草さ包まったけど。2人、びっくりしたり大喜びしたりして、その鴨どご料理して食ったけどや。
次の日の晩げ遅ぐなってがら、娘の声で「晩げなりました」て、ドンドン戸ただぐけど。じいさん出でみだば、昨日の娘「勘内や、おれの『あが』返してくれ」て言うけど。じいさん「あれは煮で食ってしまった」て言ったば、娘パッといなぐなったけど。
次の晩げもまだ戸ドンドンただいで「勘内、鴨よごせ、鴨よごせ」て言うけど。戸ただぐ音は狐の尾っぱでただぐ音だけど。じいさん達、知らねふりして戸開げねけど。次の晩もまだ戸ドンドンただいで「勘内、鴨よごせ、鴨よごせ」て言うけど。じいさん達も負げねで聞がねふりしていだば、戸ただぐ音しなぐなったけど。
その狐は、加茂山さ昔からいる女狐だけどや。トンピンカラリネッケド。