「早く助け出したい一心」 鶴岡・土砂崩れ、救助隊長ら捜索60時間を証言

2023/1/9 22:21
当時の状況を語る五十嵐多樹夫副署長(左)と、松浦茂美特別救助隊長=鶴岡市消防本部

 鶴岡市西目で大みそかに発生した土砂崩れは集落を飲み込み、2人が犠牲になった。消防や警察、自衛隊など延べ600人態勢で行われた行方不明者の捜索、救出活動は、生存への望みと二次災害発生の恐れ、寒さと疲労の中、約60時間に及んだ。現場ではどのようなやり取りが行われていたのか。鶴岡市消防署の五十嵐多樹夫副署長、同市消防本部の松浦茂美特別救助隊長が9日、山形新聞の取材に当時の状況を語った。

 昨年12月31日午前0時55分ごろ、110番通報があった。家屋が倒壊し、電線が垂れている-と消防に連絡が入ったのは約15分後だった。警戒のためにポンプ車1台が出動した。到着した現場で、がれきの中から声を確認し、救助活動が始まった。

 招集を受けた松浦隊長は同日午前5時半ごろ、現場に入った。「全貌がつかめなかった」。現場は暗闇に包まれ、崩れた建物が照明で浮かび上がった。約2時間前、2人が救出され、さらに2人の行方不明者の捜索が行われていた。

 土砂災害の崩壊規模は幅約100メートル、高さ20~30メートル、推定2万立方メートルとされる。「夜が明けるにつれ、山際や建物の輪郭がじわじわと浮かび上がってきた」(松浦隊長)。経験してきた災害とは違う惨状を突き付けられた。

 五十嵐副署長は同日午前7時半ごろ、現場の指揮隊に加わった。活動方針を練った。捜索を急ぐ一方、二次災害の回避に腐心した。

 押し流された家屋の一部が別の家屋に積み重なり、むき出しの山肌から土砂がこぼれ落ちていた。「再び崩れるかもしれない」。原因が分からず、怖さがあった。救助隊は斜面側から回り込むようにして建物に入り、がれきの中を捜した。

 県内各地から、自衛隊や消防の広域応援隊が駆け付けた。同日午後には、重機が入れるようになった。年が明けた1月1日は強い雨が断続的に降った。寒さに加え、ぬかるんだ足元が隊員の体力を奪った。がれきの撤去は夕方までにおおむね終わった。捜索活動は土の中へと移った。

 土砂が崩れた方向や家屋の基礎部分を目安に、捜索場所を絞り込んだ。不明者の名前を呼びながら、奥へ、下へと掘り進んだ。サンダルや衣類などの痕跡が出てきた。捜す場所は間違っていないと感じた。「みんな同じ願い。早く助け出したい、との一心だった」(五十嵐副署長)。

 交代で松浦隊長が現場に戻った2日午前7時前、1人目発見の知らせが入った。土砂を3メートルほど堀り下げた狭いスペースで、5人ほどの隊員が爪付きの軍手で土砂をさらった。近くでもう1人が見つかった。2人はその後、死亡が確認された。五十嵐副署長は当時を振り返り、無念の思いを口にした。

 犠牲者を伴う土砂災害は県内で約40年間、起きていなかった。そうした状況下で市消防本部が広域応援隊の支援を受ける事案だった。人員や資機材だけではなく、捜索に当たる隊員の士気を保つことにつながったとする一方、五十嵐副署長は対応を整理する中で課題も浮かび上がると話した。災害は頻発化・激甚化し、県内で2020年、22年に大規模風水害が起きている。いかに災害現場を把握し、迅速な救助につなげることができるか。災害への備えを改めて考える、としている。

鶴岡・土砂崩れ

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