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大風印刷社長
大風亨氏
大風亨氏
【インタビュー】
 -業界の現状を踏まえた自社の取り組みは。

 「1990年代のパソコンやプリンターの普及で印刷そのものが誰でもできるようになり、印刷業界は厳しい状況が続く。生き残るには誰もが簡単にできないことをするしかない。自社の名刺は社員それぞれ違う。こいのぼりをモチーフにしたり、雨にも強いプラスチック製にしたりと、印刷物を発注する際に思い出してもらえるような名刺を心掛けている。新たにうどん、しょうゆ、サバの缶詰をセットにした土産用『ひっぱりうどん』を企画し、パッケージ製作と販売を手掛け、調理方法の動画も紹介した。幅広い業種と取引する印刷会社だからこそできることがあり、自分たちで市場をつくっていくことが大事だと考えている」

 -求める人材や能力を教えてほしい。

 「時代の変化に対応するため、コミュニケーション能力と柔軟な発想力を持つ人材が必要だ。コミュニケーション能力は伝える力よりもヒアリングが特に重要になる。すごいケーキができても、砂漠を3日間歩いてきた人には水が売れる。その人の状態、困っていること、どうしてもらいたいかを聞き取ることで必要な物、売れる商品が分かる。発想力はディズニーランドのパレードで、ミッキーマウスの形の紙吹雪を用いたケースなどがいい例になる。来場者が記念品として紙吹雪を持ち帰るため、掃除が問題にならない。こうした発想力を期待したい」

 -人材育成に関する取り組み、考え方は。

 「基本的にコミュニケーション能力は家族や友人と関わることで身に付く。コミュニケーションを取るという気持ちが大事だと伝えている。発想力については東京での各種研修や展示会などに積極的に社員を派遣している。東京には力がある。行くだけでも刺激を受けられる」

 -自らが仕事上で最も影響を受けた人物は。

 「経営コンサルティング会社『ライズマーケティングオフィス』(大阪市)の田中みのる社長で、印刷に関する講話が印象深い。例えばホテルのメニュー。『ビシソワーズ』『トムヤンクン』『コーンスープ』の3種類あった場合、名前だけではコーンスープを選ぶ人が多い。しかし、ビシソワーズがジャガイモの冷たいスープで栄養価が高いなどと記せば結果が変わってくるという。『伝わらない印刷物を作っても役に立たない』との言葉を常に意識している」

 ★大風亨氏(おおかぜ・とおる) 日本大法学部卒。山形市内の会計事務所に勤務後、1997年に大風印刷の監査役に就任。2009年に社長だった兄・実氏が亡くなり、急きょ社長に就いた。山形市出身。54歳。

 ★大風印刷 1947(昭和22)年に大風謄写堂として創業し、69年に現社名となる。各種印刷業務をはじめホームページや映像コンテンツの作成、出版業務などを手掛ける。資本金1600万円で社員数131人。天童、東根、仙台の各市と東京都に営業所を持つ。山形市にはフリーマガジン「gatta(ガッタ)!」の編集室がある。本社は同市蔵王松ケ丘1の2の6。

【私と新聞】幅広く正確な情報得る
 「経営者は正しい情報を広い範囲で知らなければならない」との思いを持つ大風亨社長。幅広い情報を得るツールとして山形新聞や経済紙を活用している。山形新聞については「1部150円で国内外の情勢や経済状況、地域やおくやみの情報などを毎日届けてくれることがすごい」と話す。

 大風社長は「いわゆる『モンスター』は偏った情報がつくる」と指摘し、幅広く正確な情報を得ることの重要性を強調する。新聞の一覧性についても言及し、「興味のある記事のすぐ近くに、自分にとってより重要なニュースが掲載されているケースもある」とメリットを実感している。

 インターネットのニュースはあまり読まないといい、「個人向けに、パーソナライズされたニュースが流れてくるため、視野が広くならない」と語った。

【週刊経済ワード】不動産投資信託
 投資家から広く資金を集めてオフィスビルやマンション、商業施設、物流施設などを購入し、賃料収入や売却益を分配する金融商品。REIT(リート)と呼ぶ。2001年に東京証券取引所でREIT市場が生まれ、個人が不動産に少額から間接投資できるようになった。市場全体の時価総額は拡大傾向にあり、今年4月末時点で約12兆円。
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