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きらやか銀行頭取
粟野学氏
粟野学氏
【インタビュー】
 -マイナス金利の導入など銀行を取り巻く環境は激変している。現状を踏まえ、自社の目指す方向は。

 「銀行業は単に預金を集めて貸し出すという業務ではなく、お客さまに寄り添うという点がより重要になってきている。選ばれる銀行になるには一つのことを徹底してやることが重要だと考え、2009年から中小企業の本業支援を集中的に取り組んでいる。地域社会を支える中小企業を支援することは、そのまま地域貢献につながる。中小企業の経営者は『自分の人生=会社』と捉え、会社のために命を懸けている。そんな社長を支える家族がいて、従業員がいて、またその家族がいる。こうした人たちを支え続けることが私たちの役割だと考えている」

 -求める人材を教えてほしい。

 「どんなに時代が変化したとしても必要とされる人材だ。ポイントは三つあり、一つ目は自らの人生を将来にわたって考えられるような人間力の高さ、二つ目は相手の求めを先んじて感じ取れるような感応度の強さ、三つ目は自ら考え行動できる点だ。人生の指針があればどんな誘惑があっても揺るがない。相手をおもんぱかる力は生きていく上でも必要とされる。そして自ら考え行動できれば自己分析を通して改善すべきは改善し、継続すべきは継続するという判断ができ、自ら成長していける」

 -必要とするスキルや人材育成の取り組みは。

 「求める能力は話を『聴く力』に尽きる。本業支援では特に必要で、経営者が最も困っている点、課題を聞き出せるかが鍵になる。昨年4月からは行員の本業支援の実践力を示す独自の認定資格制度を導入した。1~9級まで各段階に応じ、財務の知識など現状把握に関する内容のほか、個別の事例を基に提案書を作成する実習も行っている。人間としての成長につながるよう、東北振興研修所(鶴岡市)を会場に、入社3年目や昇格時など各行員が1泊2日の研修も行っている。論語の教えのほか、『我(われ)づくり』『人間教育の基本』などをテーマにした講話に加え、写経や座禅の体験も取り入れている」

 -自らが仕事上で最も影響を受けた人物は。

 「元山形相互銀行社長の沢井修一氏だ。『金を貸す前に知恵を貸せ』という言葉を盛んに言っており、この言葉が今の本業支援の考えにつながっている。自分にも厳しく、メモ帳は広告の裏紙を使うなど何事にも徹底した人だった」

 ★粟野学氏(あわの・まなぶ) 東北大法学部卒。1979(昭和54)年に山形相互銀行(山形しあわせ銀行を経て現きらやか銀行)に入行。07年にきらやか銀行専務となり、08年から頭取を務める。経営統合した仙台銀行(仙台市)との共同持ち株会社じもとホールディングス(HD)では社長。山形市出身。62歳。

 ★きらやか銀行 2007年5月に殖産銀行と山形しあわせ銀行が合併して誕生。12年10月に仙台銀行と経営統合し、じもとHDを設立した。資本金は227億円で、従業員は971人(18年3月末)。本店は山形市旅篭町3の2の3。
 
【私と新聞】物事を判断する指針に
 毎朝、山形新聞と経済紙を読むのが習慣になっている粟野学頭取。「新聞は多様な価値観が混在する場所」と捉え、情報収集だけでなく、経営トップとして自らの考えを深める材料や物事を判断する際の指針の一つとして活用している。

 情報には大きく分けて2種類あると考えている。一つは日常的な知識としてそのまま受け取る情報、もう一つは深掘りして考えなければいけない情報だ。後者については、例えばマイナス金利や有効求人倍率の話題という。マイナス金利は銀行業にとっては厳しい面があるものの、株価上昇や景気の回復につながっている面もある。高水準の有効求人倍率の一方で人手不足に悩む企業もある。

 「物事をどの視点で見るかで評価は違ってくる」と強調。「さまざまな出来事に対し、新聞はいろいろな見方や考え方を教えてくれる」と話す。

【週刊経済ワード】エネルギー白書
 エネルギーに関する国内外の動向や政策、課題を分かりやすく説明した政府の報告書。「エネルギーに関する年次報告」が正式名称。経済産業省資源エネルギー庁が2003年度版から年1回刊行している。石油や石炭、天然ガスといった海外から輸入するエネルギーの割合の変化や、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を見据えた先進国の戦略も分析した。政府は8日に17年度版を閣議決定した。
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