NIBフロントライン

朝日相扶製作所社長
阿部佳孝氏
阿部佳孝氏
【インタビュー】
 -業界と自社の現状、力を入れている取り組みは。

 「椅子を中心にした木製家具製造を、相手先ブランドによる生産(OEM)で行っている。発注元は国内80社とデンマークのワンコレクション社。機械の数値制御による木の削り出しや縫製を含めた仕上げの技術に高い評価を受けており、2012年にはワンコレクションを通じ国連本部ビル(ニューヨーク)の信託統治理事会会議場の椅子を作った。一方で今後、少子化で国内市場だけでは続けられない時代になる。現在は海外販路の開拓を進めている。デンマークのほかオランダ、スウェーデン、フィンランドの家具メーカーと会い、交渉を進めている。また医療分野で使われる椅子の需要が増えており、製造に取り組んでいる」

 「課題はある。海外貿易の実務ができる人材が足りないし、製造も人手が不足している。OEMは信頼を得て仕事を任せてもらう。業界に名が通っていても、一般の人には浸透していない。知名度を上げたい」

 -求めるのはどのような人材なのか。

 「新入社員に言っていることは元気にあいさつができ、素直であり、積極的であること。職人がいる会社なので、特に積極性は技術習得のため重要だ。コミュニケーションを取り学んでほしい。人ごとではなく自分のこととして仕事の幅を広げてほしい。また山本五十六の言葉『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ』を次長や工場長クラスに言うようにしている。さらにエンジニアとして成長するため国内外の製造機械展示会に社員を派遣している。残念ながら日本の木工製造機械は海外に30年遅れている。今後はより若い人材を育てたい」

 -経営者としてこれまで影響を受けた人物は。

 「製造現場の無駄削減手法を学んだ山田日登志PEC協会長と、創業者である祖父・阿部宗一郎だ。宗一郎は『ここにしかないものにしかお客さまは来ない』と言った。オンリーワンということ。当社は家具を1台からでも受注できる。発注側は材料の樹種、塗色、貼り地を選ぶことができ、われわれは最短4日でお客さまに届ける。技術に加えて、こうしたサービスも当社にしかできない。だからこそここ朝日町に国内外からお客さまが来る。そしていつかは世界一の品質を求める『エルメス』の仕事をしたい。エルメスに認められれば、どんな仕事にも対応できるはずだ」

 ★阿部佳孝氏(あべ・よしたか) 東洋大卒。千葉県で育ち、在学中に祖父で創業者の阿部宗一郎氏から「会社を手伝ってくれ」と請われ、オフィス家具メーカーでの営業職を経て2001年入社。前社長の急逝に伴い05年に33歳で社長に就任した。札幌市生まれ。47歳。

 ★朝日相扶製作所 1970年に、冬の出稼ぎ防止対策で椅子カバーの縫製工場として朝日町で創業。木製家具製造に乗りだし、現在は国内外のブランド木製家具製造を請け負う。2017年に経産省「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定。製造拠点は本社第1工場、同第2工場、寒河江工場の3カ所。資本金4970万円。従業員数は約140人。本社は朝日町宮宿600の15。

【私と新聞】先輩経営者の考え勉強
 新聞を自らの情報源と表現し、「毎朝6時には自宅で目を通す」と話す阿部社長。お気に入りは山形新聞の本欄「NIBフロントライン」という。「先輩経営者がどのような考え方を持っているのかを勉強している。特に海外市場を開拓、または海外市場に挑戦している経営者に、とても刺激を受けている」と語る。

 同社の社員の半数は地元朝日町民で、地域の情報を収集できる地域版も重視する。「地域の発展なくして会社の発展はなく、会社の発展なくして地域の発展もないと考えている」。気になる地元の記事は会社で休憩中に話題にするといい、「最近では町内の温泉施設『りんご温泉』が廃止になるという記事が気になっている」と話す。「おくやみ欄も大切。お世話になった方々への礼儀を忘れてはならない」とも。

 山形新聞に対しては本県、地元に特化した情報を、これまで通り掲載し続けてほしいと語り、「経済の情報をもっと充実させてもらえれば」と注文した。

【週刊経済ワード】リブラ
 米交流サイト大手フェイスブックが発行計画を6月に公表した電子的な通貨。紙幣や硬貨がなく、暗号資産(仮想通貨)の技術を活用している。スマートフォンで送金や決済、貯金といった金融サービスを安価に利用できるという。発行者側が価値を担保する資産を持つため「ステーブル(安定した)コイン」との呼び方もある。法令上、リブラのサービスは銀行業や、上場投資信託(ETF)の取引などに当たるのではないかとの議論も出ている。
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