NIBフロントライン

佐藤繊維社長
佐藤正樹氏
佐藤正樹氏
【インタビュー】
 -繊維業界の現状は。

 「当社は原料の羊毛調達と糸作りから染色、編み、アパレル製品の企画、デザイン、製造、マーケティング、販売まで取り組んでいる。中小企業でここまでを1社で行うのは世界でも当社だけだ。ウールの本場欧州の展示会に糸を出品すると当社ブースが注目され人が集まる。その欧州では中小企業が倒産したり、大手に吸収されたり、中国企業に買収されたりしている。世界中で同じ状況だ。さらにインターネット販売が全盛の中で新型コロナウイルス感染が拡大し、来店者が減った。国内でも販売各社の売り上げ減が止まらない。当社も従来の販売は苦戦している」

 -苦境の中で力を入れるべきと考える取り組みは。

 「コロナ禍でマスクを作ると、会員制交流サイト(SNS)で大きな反響があった。今後はお客さまにダイレクトに情報を届けることが非常に重要だ。そしてトレンドは自ら作るべきだ。テレワーク定着を受け、家で着心地が良く外にも出られる衣服が求められている。涼しく速乾性の高い生地の糸として和紙とウールを組み合わせたり、難燃性を高めたりした糸などを作っており、特徴的な製品に生かしたい。またコロナ収束後を見据えて、山形に人を呼び込むビジネスが大切となる。本社敷地内のセレクトショップ『GEA(ギア)』では山形や東北などの作り手の品を増やしている。動画投稿サイトに設けたPRチャンネルでは寒河江の情報もしっかり伝える」

 -求める人材と育成法は。

 「特定の分野が好きで、一つの仕事にこだわって深掘りする人材を育てたい。オタクになるぐらい好きになれば、商品の歴史など周辺分野も勉強したくなる。知識が増えれば面白くなり成長する。一方で接する相手の心をつかむ人材を育てることも大切。こうした人材を組み合わせて自らの目標、会社の将来を語り合える組織にしたい。また縫製など若者が単純だと思う作業の意味もしっかり伝えたい」

 -仕事上で影響を受けた人物は。

 「自動織機を発明してトヨタグループ創始者となった豊田佐吉、その長男で自動車製造を始めた豊田喜一郎からは挑戦の魂を感じる。電気製品を米国に売り込みソニーをブランドにした盛田昭夫さんもすごい。みな将来のビジョンを持ち、実現させている。私も負けていられないと思う」

 ★佐藤正樹氏(さとう・まさき) 日大山形高、文化服装学院卒。都内のアパレル会社で営業企画を経験し、1992年、結婚と同時に帰郷し佐藤繊維入社。各製造現場を学び取締役ニット部長、専務を経て2005年、4代目社長に就任。寒河江市出身。54歳。

 ★佐藤繊維 初代佐藤長之助が寒河江市で1932(昭和7)年、羊毛糸の手紡ぎで創業。54(昭和29)年に2代目忠雄が会社組織にし、3代目安男はニット製造部門を新設。生産した極細モヘア糸が2009年、米オバマ大統領就任式でミシェル夫人が着たカーディガンに使われ脚光を浴びた。東京、大阪、ニューヨークに事務所を設ける。資本金5410万円。従業員数236人で、グループ会社を含め364人。本社所在地は寒河江市元町1丁目19の1。

【私と新聞】地元の出来事を知るツール
 業界紙を含め6紙を購読している佐藤社長。このうち山形新聞は会社で夕方、じっくり読むスタイルという。「地元企業のものづくりのニュースや地域の話題、県内の政治の話も気になる」。会話する取引相手は東京の人がほとんどで、県内の出来事を知るツールとして地元紙は役立つと話す。地域の情報を中心に掲載する地方紙について「県民が地元の情報を共有することに一つの意味がある」と指摘する一方、時代に合わせ変化する必要性も語る。

 山形新聞に載った佐藤繊維の記事を東京の知人から話題にされたことがあった。「情報はネットでつながっている。全国の人々に読まれることを踏まえて記事を書いてほしい」とし、「地方だからできるものづくり、取り組みこそ新しく、都市圏の人に読まれる。記事にはネットを意識し、時代に合ったキーワードを入れてほしい」と語った。

【週刊経済ワード】Go To トラベル
 新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ観光需要の喚起策。国内の宿泊、パック旅行、日帰りツアー代金の50%を国が支援する。今月22日から35%分の代金割引を先行させ、残る15%分は9月以降、旅先で買い物や飲食、交通に使える地域共通クーポンを配る。東京都は対象から除外された。関連予算は約1兆3500億円。
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