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酒井製麺所代表社員
酒井政輔氏
酒井政輔氏
【インタビュー】
 -業界、自社の現状は。

 「本県は全国に誇れる麺の大消費地であり生産地。国の家計調査による1世帯当たりの品目別年間支出額(2017~19年平均)を見ると、山形市の中華そば(外食)は1万5687円で全国1位。金額は全国平均の2.4倍に上る。人口10万人当たりのラーメン、そばの店舗数はそれぞれ1位と2位で、麺を心から愛し、食べていただける風土がある。製麺業者も他県より多いものの、県製麺協同組合のデータでは1986年に82だった工場数が2021年には約40に減っている。人口減少が進む時代の流れだ。そこに新型コロナウイルスの感染拡大があり、飲食店向けが打撃を受けている。当社の場合は昨年4月以降、乾麺と自宅向けの生麺は巣ごもり需要で前年並みだが、飲食店に卸す生麺が2割落ち込んでいる。一日も早い感染収束と景気回復を願う」

 -求める人材と、育成で留意する点は。

 「主力の飲食店向け生麺は約200店舗に卸しており、各店のこだわり、スープに合わせた多品種少量生産をしている。それができるのが当社の強みだが半面、人手がかかり、流れ作業ではできない。その日の天候、原料の温度で毎日水の量が変わるため、感覚をつかむ経験が必要。試行錯誤を重ねて打った麺を食べてみて、その麺の性質をつかみ、お客さまと向き合う姿勢が大切だ。職人の育成は当社の課題でもあり、国家資格の製麺技能士を取得してもらうなどし、技術を磨いてもらっている」

 -影響を受けた人物と教えは。

 「自分のモットーは最善を尽くすことと感謝の心を忘れないようにすること。『製品づくりの基本は、いい原料と最新の製麺技術であり、うまいものは必ずお客さまが分かってくれ、買ってくれる』という当社の姿勢と合わせて、創業者である両親に教えてもらった。父・正一は近所の製麺所に奉公して腕を磨き、販売先がなかった頃はリヤカーで行商した。口コミで麺のうまさが広まり、顧客開拓へとつながった。母・みなこは都内のデパートで試食販売を行った草分け。ひたすらおいしい麺を追求した父と、販売力のあった母のコンビは最強だった。もう1人は塚田会計事務所(山形市)の中山眞一社長。半世紀の付き合いで、経理全般、健全経営の大切さを教えていただいた」

 ★酒井政輔氏(さかい・まさすけ) 明治大経営学部を卒業してすぐ、酒井製麺所に入社。2000年に代表社員に就任。現在も毎日製造現場に出る麺職人。県製麺協同組合理事長。79歳。

 ★酒井製麺所 酒井政輔代表社員の父正一氏(故人)が1930(昭和5)年、2代続いた粉ひき業を転換して製麺業を創業。旧満州(現中国東北部)からの引き揚げ者に「支那そば」の製法を学び、当初は生麺中心に、同時期から乾麺製造も始める。56(同31)年に合資会社。山形市、村山地域を中心に約200店舗へと生麺を卸す。乾麺は有名そば店の土産用のほか、こんにゃくや秘伝豆など郷土の食材を取り入れたオリジナル商品でも知られる。資本金200万円、社員数約40人。本社所在地は山形市緑町4の22の11。本社近くに直売所を開く。

【私と新聞】切り抜き、読み返し参考に
 早朝の仕事を終えた後、自宅に戻って新聞を読むのが楽しみという酒井政輔代表社員。山形新聞と経済紙を購読しており、本紙で最初に読むのは1面の「談話室」。「旬の話題をはじめ、いろいろなテーマで論じていて、あれは面白いね」と笑みをこぼす。

 気になった見出しを見つけたらどんな分野の記事も読むが、不思議と麺関連の記事はすぐに目に飛び込んでくるという。自社でも2020年に筋肉や骨を育む栄養素を効率よく摂取できる「スポ麺」を発売し、注目を集めたが、県内の各製麺所から工夫を凝らした多彩な製品が発信されており、興味深く読んでいる。仕事に関係しそうな記事は切り抜き、後からも読み返して参考にしているという。

 「地元の話題はやはり山形新聞。今後も地域の経済、行政をはじめ幅広い記事の掲載をお願いしたい」と話した。


【週刊経済ワード】日銀の上場投資信託(ETF)購入
 ETFは複数の株式銘柄を束ねた投資商品で、上場株式と同じように売買できる。日銀は、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)など特定の指標の値動きに連動するETFを買い入れており、株価下支えの恩恵は大半が東証1部上場銘柄に集中している。日銀は買い入れの有無や金額を毎営業日の夕方に公表している。
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